西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2010年 10月

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タデ科の秋
秋の高原の草花
Fig.1 高原の秋の草花
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タデ科イヌタデ属と高原の秋の花

秋の水辺で目立つのは群生するタデの仲間の開花です。水田の畦にはイヌタデ、ミゾソバ、ヤノネグサが沢山の花を開花させて遠くからでもよく目立ちます。 用水路脇ではボントクタデ、サクラタデ、ヤノネグサ、アキノウナギツカミ、ホソバノウナギツカミなどが開花しています。 河川敷や大河川の氾濫源などのいわゆる原野環境の湿った場所ではヤナギタデ、シロバナサクラタデ、サデクサ、イシミカワ、ママコノシリヌグイのほか、稀にホソバイヌタデが見られることがあります。 この他、兵庫県下の播磨地方の溜池畔や自然度の高い休耕田ではサイコクヌカボ、ヤナギヌカボ、アオヒメタデなどが生育していることがあります。 山地の林道沿いの湿った場所や渓流畔でもハナタデ、タニソバが、深山の林床や渓流畔ではミヤマタニソバなどのダテ科植物が現われます。 今回はこれら秋の山野に見られるタデ科イヌタデ属を紹介します。 まず最初はイヌタデに代表される茎にトゲがなく花を花序に総状につけるものを、次にミゾソバのように茎にトゲを持ち花が頭状(時に総状、本来は総状花序)に集まったものを紹介していきます。 なお、今回はイヌタデ属全てを取り上げたわけではなく、オオイヌタデ、ハルタデ、サナエタデ、ネバリタデなどの草本の紹介が都合上できませんでした。
秋は標高の高い場所から序々に低地へと降りてきます。 メモの後半では兵庫県北部の但馬の高原地域にカンガレイ類の調査に出かけた折りに出会った秋の草花をいくつか紹介したいと思います。 但馬の高原地帯では、どこも秋の花が百花繚乱でした。 左のFig.1画像は棚田の間を流れる小川の土手を写したものですが、ススキ原のなか、ヨシノアザミ、ゴマナ、クロバナヒキオコシ、サワヒヨドリ、タムラソウ、オタカラコウ、 アカバナ、ヤマハッカ、ツリフネソウなどが今を盛りと咲き乱れていました。

イヌタデ
Fig.2 畦に群生するイヌタデ
イヌタデは最も馴染み深いタデ科植物で、耕作地周辺から人家の庭先、道ばた、鉄道架線の土手などいたるところで見られる。 古い世代ではままごとに「アカマンマ」として使った記憶をお持ちの方もあるだろう。 どこにでも生育しているだけに、生育環境による変異の幅が大きく、時に判断に迷う集団に遭遇することもある。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 イヌタデ
サクラタデ
Fig.3 サクラタデ
サクラタデはイヌタデ属中最も大きな花をつけ、淡紅色の花も見栄えが良い種。 用水路脇や休耕田で根茎を伸ばして群生しているのを見かけることが多く、開花していると遠くからでもよく目立つ。 次に紹介するシロバナサクラタデとよく似るが、葉の付け根にある托葉鞘には伏せ毛が生えないことによって区別がつく。 兵庫県下ではシロバナサクラタデよりも眼にする機会は少なく、本来氾濫源や沖積台地といった肥沃な場所に成立した水田周辺で見かけることが多い。
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●湿生植物 サクラタデ
シロバナサクラタデ
Fig.4 シロバナサクラタデ
前種サクラタデと同様、地中に枝分かれした根茎を持ち群生していることが多い。 どちらかというと撹乱のある河川敷や溜池畔に現われることが多く、サクラタデとは好む生育環境が微妙に異なるように思われる。 サクラタデとは、托葉鞘の表面に伏せ毛を生じることで区別できる。 サクラタデは西宮市内では見られないが、シロバナサクラタデは河川敷で群生している姿が見られる。
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●湿生植物 シロバナサクラタデ
ハナタデ
Fig.5 ハナタデ
ハナタデは湿った林床や林道脇、渓流畔などに生育することが多く、里山よりもやや山地よりに生育する。 とは言うものの、溜池土堤の半日陰や、樹林の覆いかぶさった農道などに生育していることもあるので注意が必要。 和名のハナタデだが、花を強調するほどの派手さはなく、花序につく花はまばらで、イヌタデ属のなかではかなり地味なほうである。 イヌタデやボントクタデに似るが、イヌタデの葉より基部よりが多少幅広く、葉先が尾状にとがり、花序につく花がまばらな点で区別でき、 ボントクタデとは葉面・花被ともに腺点がない点で区別がつく。 花序枝が長く伸びて、花がきわめてまばらに付くものを変種ナガボハナタデ(var. laxiflora)とすることがあり、 兵庫県下でもやや高所の湿地や林下に見られるが、ハナタデとの変異差が明確なのか連続的なものか、今後精査する必要がある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ハナタデ
ボントクタデ
Fig.6 ボントクタデ
イヌタデ属の中ではヤナギタデとともに湿田状のぬかるんだ休耕田で最もよく見かける種であり、経年数の少ない休耕田での常在種である。 ヤナギタデとともに眼にする機会が多いが、上記のような休耕田ではヤナギタデよりも多く見られ、河川敷や乾田ではヤナギタデのほうが多いように思われる。 また兵庫県下の溜池畔にはヤナギタデよりも本種のほうが出現頻度は高い。 和名のボントクタデのボントクはボンツク=愚鈍者の意で、葉に辛味がなく、ヤナギタデのように薬味として利用できないことによるもの。 ボントクタデはヤナギタデとは、托葉鞘の基部に伏せ毛がある点、全体に毛があることにより区別できるが、草体に辛味がないので、迷った場合は齧ってみればよい。
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●湿生植物 ボントクタデ
ヤナギタデ
Fig.7 ヤナギタデ
ヤナギタデは前種ボントクタデと同様な環境に見られるが、河川敷に特に多く見られ、湧水の流入する緩やかな河川では沈水状態で生育していることもある。 止水域に沈水状態で生育するものは閉鎖花を形成して自家受粉し、結実するという話しを聞いたことがあるが、まだ実見していない。 ボントクタデよりも花序に密に花がつき、花はまばらに開花する。全草に辛味があり、古くから香辛料(薬味)として蓼酢や刺身のつまに用いられた。 ヤナギタデの辛味のもととなる物質はポリゴジアールといわれ、魚に多い寄生虫アニサキスに対して殺虫効果があるとされている。 刺身のつまとして利用されていたのも、経験的な知恵に基づいたものであったようだ。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヤナギタデ
ホソバイヌタデ
Fig.8 ホソバイヌタデ
ホソバイヌタデは大河川の中〜下流域の氾濫源に生育する種であり、大河川といっても国内にある数は知れているので自生地は少ない。 生育する場所は台風などで増水すると、容易に奔流に飲み込まれるような場所のようであり、氾濫による撹乱がないと生育できない種なのであろう。 画像のものは標本用に頂いたあまりを睡蓮鉢に放り込んでいたものが成長開花したもので、他に邪魔するものがなければ旺盛に生長するようである。 花はイヌタデに似るが草体はより大きく生長し、花序はイヌタデよりも 短く やや太く、花被は淡紅色で、花被と葉裏には本種特有のカサブタ状に盛り上がった明瞭な腺点があり、これにより区別は容易である。 画像右側は葉裏に散布された腺点の様子である。(24th.Oct.2010修正)  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
アオヒメタデ
Fig.8 アオヒメタデ
アオヒメタデは花被が淡緑色または淡緑白色となるヒメタデの変種と位置付けられている種である。母種ヒメタデは花被が淡紅色となる。 アオヒメタデは兵庫県下では撹乱地に見られる種である。ヒメタデには湿地型と撹乱地型があるとする説があり、現在確認できている兵庫県下のものはおそらく撹乱地型であろうが、 アオヒメタデ、ヒメタデともにもともと自生地が少なく減少傾向にあり、その全体像を捉えることはなかなか大変な仕事であると思われる。 花は前出のホソバイヌタデやイヌタデの白花品に似るが、葉は広線形〜長披針形で細長く、なかなか出会えない種であるが一度実物を見れば区別は容易である。 花被や葉裏に腺点はない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アオヒメタデ
ヌカボタデ
Fig.10 サイコクヌカボ ヌカボタデ
ヌカボタデは兵庫県下では主に播磨地方の二次的自然度の高い溜池畔を中心に生育しており、他の地域では自生地・個体数ともに極端に少なくなる。 平野部の溜池で見られることは少なく、丘陵部〜山間谷池の流れ込み付近の水位が増減する裸地に生育していることが多い。 花序には花がまばらに付き、画像ではボントクタデと似ているように思うかもしれないが、草体はより繊細で弱々しく、花被も小さく、葉は狭披針形で、葉や花被に腺点はない。
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●湿生植物 ヌカボタデ
ヌカボタデ
Fig.11 ヌカボタデ ヒメタデsp.
関東地方に分布し、実態のよく解らないイヌタデ属の1つ。 湘南さんにより標本用の生体を送って頂いたもの。 痩果の多くは3稜形で、黒褐色で強い光沢がある。花被や葉裏に腺点はない。 自生地は氾濫源の人為的な撹乱のあるような場所のようだ。
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●湿生植物 ヒメタデsp.
ヤナギヌカボ
Fig.12 ヤナギヌカボ
7月のヒメタデの調査の際、西播磨の平野部の溜池直下の休耕田に生育していたもので、ヒメタデやサイコクヌカボにしては葉が細いと思って持ち帰り、花序が出て標本にできるまで栽培したもの。 睡蓮鉢に植え込んで長らく放置していたが、気が付くと葉腋から細い花序を直立するように出していたので、葉裏を拡大してみたところ多数の腺点が見られヤナギヌカボであると判った。 その名のとおり葉はシダレヤナギのように細長く、葉の中央付近の両縁が平行となり、葉腋から直立気味に出た花序の柄はごく短く、下方から花被がサイコクヌカボよりも密に中軸に接してつき、 細い円柱状をなしている。 ヤナギヌカボは兵庫県での分布は限られ、RDB Bランクとされ、全国的にも環境省絶滅危惧U類(VU)とされている。 今回紹介したホソバイヌタデ以降の5種は、どの種も自生地が局限、または減少・消滅し、絶滅が危惧されるものである。
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●湿生植物 ヤナギヌカボ
ミゾソバ
Fig.13 ミゾソバ
茎にトゲがあり、花が頭状に集まるものの筆頭はやはりミゾソバだろう。この時期、水田の畦や用水路で群生して沢山の花が秋の日差しを浴びて輝いているように見える。 花柄には腺毛があり、花被はヤノネグサよりも大きくよく目立ち、白花のものもよく見かける。 旧くから身近にあって救荒食としても利用されたことから、ウシノヒタイ、カエルグサ、コンペイトウバナ、タソバ、ビキノシタなど様々な呼び名がある。 救荒食としては湯にくぐらせて調理したり、そばがきにして食されたようである。現在でははびこって仕方ない水田雑草であるが、過去には予想できない飢饉の際に重宝していたのかもしれない。
ミゾソバは晩秋になると、地表近くの地下に閉鎖花をつける。近縁種のヤノネグサやアキノウナギツカミに較べて広い面積で群生するのは、 この閉鎖花の種子が地中に数多く作られていることもその一因だろう。
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●湿生植物 ミゾソバ
ヤノネグサ
Fig.14 ヤノネグサ
水田や休耕田などではミゾソバに次いでよく眼にするタデ科の草本である。 花は頭状に集まるが、少し縦長であり、花が密に集まった総状花序であることがわかる。 花被はミゾソバやママコノシリヌグイ、アキノウナギツカミに較べて小さいが、拡大して見ると閉じた花被の濃い紅色と、開花した白い花被とのコントラストが美しい。 花柄には赤色を帯びた腺毛が生えるが、この腺毛はナガバノウナギツカミのものに較べて短く、あまり目立たない。
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●湿生植物 ヤノネグサ
ママコノシリヌグイ
Fig.15 ママコノシリヌグイ
ママコノシリヌグイは湿地よりも河川敷や河川堤防などのやや湿った原野的環境を好む。 西宮市内でも河川敷に最も多く見られ、ツルナやハマヒルガオの生育する海浜の高潮帯にも見られる。 茎の稜上には硬く鋭い下向きのトゲがあり、これによって他物に絡みつく。 標本を採るときにはトゲが引っ掛かってなかなか手を焼かせ、ヤブ漕ぎなどで衣服に絡みつくとなかなか取れずに往生する。 「継子ノ尻拭い」とはなかなか凄まじい名前であるが、花はミゾソバ同様に美しい。 花柄には緑白色の腺毛がまばらに生える。托葉鞘の上部が葉状腎円形となるのが判りやすい他種との区別点である。
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●湿生植物 ママコノシリヌグイ
サデクサ
Fig.16 サデクサ
サデクサは河川の洪水や氾濫などの撹乱によって生育環境を広げる種であり、治水工事の普及によって河川敷が安定した河川が多い現在では、あまり見られなくなった種である。 そのため現状では多くの都道府県でRDBに記載されている。西宮市内では幸いなことに河川敷に群生地があり、シロバナサクラタデやシロネなどとともに毎年生育が見られる。 茎にはママコノシリヌグイと同様の硬く鋭いトゲがあるが、葉はほこ形で、托葉鞘の上部は葉状となるが縁が歯牙状に切れ込むことにより区別できる。 また花序につく花数はミゾソバやママコノシリヌグイよりも少なく、花被もやや小さい。花柄には緑白色の腺毛を密生するが、毛状となったトゲも混じって生えている。 兵庫県でもRDB Cランク種とされているが、硬く鋭いトゲを持ち、花もミゾソバよりも地味で、一般にはあまり見向きもされない草本である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 サデクサ
ナガバノウナギツカミ
Fig.17 ナガバノウナギツカミ
ナガバノウナギツカミはもともと自生地が局限される上、溜池の埋め立て、湿地環境の改変などによって姿を消しつつあるタデ科の草本である。 花がよく目立つにもかかわらずほとんど姿を見かけることがないというのは、よほど自生地が少ないということで、前種サデクサよりもはるかに危機的状況にあると考えねばならない。 草体はヤノネグサに似るが、草体はふつう大きく、典型的な葉はヤノネグサのものよりも明らかに長く、花被はミゾソバ並に大きく、多数が頭状ないし球状に集まる。 また花柄には赤色の長い腺毛が密に生えて花序がよく目立つ点で区別できる。茎の逆刺は退化的で、小さな瘤状となりほとんどざらつかない。 環境省準絶滅危惧種(NT)、兵庫県RDB Bランク種であるが、兵庫県下の自生地でどれほど生き残っているか詳しい調査が必要であろう。
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●湿生植物 ナガバノウナギツカミ
アキノウナギツカミ
Fig.18 アキノウナギツカミ
アキノウナギツカミは用水路脇、湿地、溜池畔など、ミゾソバやヤノネグサと比べてやや人為的影響の少ない湿地環境に生育するタデ科植物で、 水田に現われる場合は棚田や二次的自然度の高い湿田に限られる。花はミゾソバやママコノシリヌグイに似るが、托葉鞘の上部は葉状とならず薄膜質円筒状で茎を包み、その口部に縁毛が生え、 葉は披針形で長く、葉身基部は深い心形となる点で区別がつく。 また、花柄は無毛で平滑である。茎にはまばらに短い下向きのトゲが生えるが、気になるほどではない。 花のない時期は次種のホソバノウナギツカミにやや似るが、葉は革質ではなく洋紙質で薄く光沢がない点、 ホソバノウナギツカミの托葉鞘基部には毛が輪生するが、本種では無毛な点で区別できる。
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●湿生植物 アキノウナギツカミ
ホソバノウナギツカミ
Fig.19 ホソバノウナギツカミ
ホソバノウナギツカミは兵庫県下では分布域が西南部に偏っており、阪神・摂津地域では神戸市北区以西に分布し、西宮市内では見られない。 古い記録に西宮市よりも東に位置する伊丹市内の記録があるが、阪神地域の平野部の開発は激しく、現在では絶滅しているものと思われる。 播磨地方では溜池畔や用水路脇などでごく普通に見られ、おなじ県内でもこれほど分布域がはっきり分かれる要因は何なのかと考えさせられる種である。 生育環境は前種アキノウナギツカミと重複するが、アキノウナギツカミよりも沈水状態に耐性があり、用水路内で水没しているものは細長い赤化した葉をつけたまま越冬していることがある。 図鑑では1年草とされているが、冬期は茎の節間が短くなり、連続する托葉鞘に茎がほとんど覆われ、小さな卵形の休眠葉をつけた前年の茎の基部付近から分枝した枝がそのまま越冬しており、基本的には多年草であると考えられる。
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●湿生植物 ホソバノウナギツカミ
ナガバノヤノネグサ
Fig.20 ナガバノヤノネグサ
タデ科イヌタデ属の中では最も地味な草本で、1つの花序につく花は1〜3個で花被も小さく、足元に咲いていても多くの人は素通りしてしまいそうな種である。 ふつう山地寄りの林下の湿った場所に見られるが、陽光のあたる場所で生育しているものも見かける。 日当たりの良い場所では茎を地表近くに広げていることが多く、日陰では斜上しながら立ち上がっているものを見る。 茎にはトゲはなく、剛毛がまばらに1列に生えているが、古い茎では剛毛も脱落していることが多い。 葉は薄い革質で鈍い光沢があり、葉身基部付近の中央脈周辺が淡色となり、他の種とのよい区別点となる。 西宮市内にも分布するが、県内ではそれほど多くは見かけない草本である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西・秋の花 ナガバノヤノネグサ
イシミカワ
Fig.21 イシミカワ
イシミカワは河川敷や湿った原野でよく見かける草本で、ママコノシリヌグイと生育環境がよく似るが、より湿った場所を好む傾向がある。 果実期になると大変よく目立ち、多肉質の花被が淡黄緑色から紅色に変わり、完全に熟すとコバルトブルーとなり美しい。 このような果実をつけるタデ科草本は国内では他に無く、果実期には非常に判りやすい草本である。 茎には下向きの鋭いトゲがあり、成長期にはママコノシリヌグイに似るが、葉柄は葉身基部の最下につかず裏面に楯状につくこと、托葉鞘の上部は皿形になることで区別できる。
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●湿生植物 イシミカワ
タニソバ
Fig.22 タニソバ
タニソバは山地寄りの日当たり良い湿った場所に生育し、兵庫県下では中部以北の山地に自生地が多い。 中北部の山間の棚田にミゾソバやヤノネグサとともに現われることも多い。 画像のものは中部の山間棚田の農道の溝に根を下ろして広がっている個体で、茎下部につく葉は色づき始めていた。 タニソバは葉柄が翼状に広がり、その基部が茎を抱いているのが大きな特徴で、葉を調べればすぐにそれと判る。 花被はミゾソバよりも小さく、開花しても近縁種のように大きく開かない。また花序に近い茎上部の托葉鞘基部には腺毛がある。
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●湿生植物 タニソバ
ミヤマタニソバ
Fig.23 ミヤマタニソバ
今回紹介したタデ科イヌタデ属草本のなかでは最も深山に生育する種である。 高層湿原の周辺や、渓流畔、湿った岩場などで見られることが多い。 画像のものは水がしたたる岩壁の下部でウワバミソウ、シャク、ナメラダイモンジソウ、サンインシロカネソウ、ネコノメソウの仲間などとともに生育していた。 茎や葉柄は細く赤紫色を帯び、葉腋から花茎を上げて分枝した先に数個の花をつけるが、花被は先に紹介したナガバノヤノネグサよりもさらに小さい。 名称が紛らわしいものにミヤマタニタデがあり、この種も深山の湿った場所で見られるがタデ科ではなく、アカバナ科である。 同様なものにタニタデやチョウジタデなどがあり、これもアカバナ科。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
不時開花するサンインシロカネソウ
Fig.24 返り咲きするサンインシロカネソウ
サンインシロカネソウは兵庫県下では但馬地方の山地の渓流畔に生育し、ふつう開花期は春〜初夏にかけてだが、この時期に返り咲きしている個体が相当数見られた。 自生地を見つけたのが日没時であったため、当日開花した花はすでにほとんどしぼんでいたが、そんな花が10花以上あった。 また、画像のようにつぼみや果実をつけているものも多く見られた。
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ダイモンジソウ
Fig.25 ダイモンジソウ群落
ダイモンジソウが満開の岩壁があった。すでに闇に包まれはじめた中、白い花弁が浮き上がり、見事な眺めだった。 その名のとおり「大」の字形の花をつけ、渓谷の岩壁で生育していることが多い。似たものではウチワダイモンジソウ、ナメラダイモンジソウ、ジンジソウなどが兵庫県下に生育し、 このうちダイモンジソウとナメラダイモンジソウは西宮市内にも自生地があるが、ダイモンジソウの自生地は今回但馬で見たものほど規模の大きなものではない。
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アキチョウジ
Fig.26 アキチョウジ
つい数日前、丹波の里山でようやく開花がはじまっていたアキチョウジだが、但馬の高原ではすでに盛りは終りに近いようで、花をすっかり落とした花序も多かった。 秋は山の頂から降りてくることを改めて実感した。秋は多くのシソ科の花が一斉に開花して賑やかである。この日は後に紹介するクロバナヒキオコシやメハジキ、ナギナタコウジュのほか、 ヤマクルマバナ、イヌトウバナ、ヤマハッカ、イヌヤマハッカ、ヒキオコシ、ヒメジソ、イヌコウジュ、キバナアキギリなどが開花していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 アキチョウジ
ミツバフウロの花
Fig.27 ミツバフウロの花
ミツバフウロは兵庫県下では中北部の山地に分布する。林道脇の草地や河原、スキー場など撹乱を受けやすい場所に見られ、他の丈の高い草に寄りかかるように伸びていることが多い。 花のつくりは同属で里山に多いゲンノショウコと同様だが、それよりも少し大きく淡紅色を帯び、花弁の間から伸びた萼片の先が出るのが目立つ。 葉は3深裂するが、外側の裂片は更に中裂するものもあり、そうなるとゲンノショウコの葉と似て紛らわしいこともある。 県下では同属のものにコフウロ、ビッチュウフウロがあるが、ともに自生地は限られ稀である。最近になって見かけるようになったヒメフウロは栽培逸出のものである。
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●関西の花 ミツバフウロ
ウメバチソウ
Fig.28 ウメバチソウ
ウメバチソウは氷河期の遺存種とされ、兵庫県北部では高原の適湿な草地に見られ、南部では貧栄養な湿地や冷涼な渓谷の岩壁などに見られる。 但馬地方の高原では早くも開花が始まっており、貧栄養な湿地での開花を見慣れた眼には、ブタナやコウゾリナなどとともに芝地に点在する姿は奇異に映る。 周辺の草地にはリンドウ、センブリ、イトハナビテンツキなどが見られ、適湿な環境であることがわかる。 ウメバチソウの花には雄蕊と雌蕊の他、分枝して黄色い腺体を先端につける5つの仮雄蕊があり、それが中央を冠のように取り囲み、その造形の妙はひと際眼を惹く。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ウメバチソウ
オタカラコウ
Fig.29 オタカラコウ
山間に開かれた小規模な棚田の奥が山からの細流を集めたちょっとした湿地状となっており、数本のヤナギの樹下にオタカラコウの小群落が見られた。 但馬地方ではオタカラコウは渓流畔から湿地、用水路脇、水田の畦など湿り気のある場所であればどこにでも見られるありふれた種であるが、最も秋を実感させる花である。 ここではミゾソバ、ヨシノアザミ、タムラソウ、コウヤワラビ、フキなどとともに見られた。 オタカラコウはシカの不嗜好植物で、丹波地方では食害をのがれた本種が渓流畔などで増えつつある。 アケボノソウも同様な環境に見られるシカの不嗜好植物だが、最近は食害が目立つようになった。
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●湿生植物 オタカラコウ
ナギナタコウジュ
Fig.30 ナギナタコウジュ
ナギナタコウジュは県下ではやや冷涼で撹乱のあるような場所で見られ、但馬地方では道ばたの草地などに普通に生育している。 西宮市内では六甲山系の道路脇で生育しているものが見られる。 花は一方にかたよって密集してつき、淡い紫色がなかなか美しく、全草に芳香があるため、見つけると葉をむしってその香を楽しむのがクセとなってしまっている。 よく似たものにフトボナギナタコウジュがあり、ナギナタコウジュよりもやや稀で、花序の苞の先は長く伸び、花序全体が太い。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ナギナタコウジュ
クロバナヒキオコシ
Fig.31 クロバナヒキオコシ
クロバナヒキオコシは日本海側に分布の中心域があり、兵庫県下では中部から北部の山地寄りに見られる。 但馬地方では林道脇や棚田の土手や草地などに普通に見られる。 林道脇に生育するものはネザサやアザミの仲間、ゴマナなどと背丈を競って大柄となり、野放図で取り留めのない草姿となるが、 刈り込みの行き届いた棚田の土手に生育するものはこじんまりとして端正な草姿となり、渋い花の色もよく引き立つ。 画像のものは棚田土手の石垣の間に点々と生育しているもので、適度な刈り込みによって端正な草体が保たれていた。
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●関西の花 クロバナヒキオコシ
コシオガマ
Fig.32 コシオガマ
コシオガマはゴマノハグサ科の半寄生植物。兵庫県内に広く分布するが、どこにでも見られるという訳ではなく、 自生地はやや局所的であり、草刈りが行われ草原環境がある程度維持できている場所に残存しているといった印象を受けるが、 溜池土堤で大群生して開花期には堤が赤く見えるような場所もある。 ちなみに西宮市内では生育が確認できていない。 但馬地方では草刈りの行われる棚田の土手によく見られ、ススキ、ヨシノアザミ、ツリガネニンジン、クロバナヒキオコシ、ヤマハッカなどとともに見られることが多い。
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オオセイボウ
Fig.33 サワヒヨドリを訪花したオオセイボウ
セイボウは「青蜂」であり、その名のとおりメタリックな青色が太陽光をよく反射して一部では緑色を帯びて美しいハチである。 セイボウの仲間には何種かあるが、そのうちオオセイボウは最も大きい。この仲間のうちでは割合よく見かけるほうであるが、なかなかゆっくりと写真を撮らせてくれる機会がない。 ヤノネグサやアブラガヤ、カンガレイの生える湿地を観察していると、眼の前にあるサワヒヨドリにセイボウがやってきて止まった。 デジイチをゆっくりと準備している余裕などない。 そろそろとウェストポーチからコンデジを取り出して、ドキドキしながら撮影。 撮れた画像はこの1枚だけで、オオセイボウは花に蜜があまりなかったのか、すぐに飛び去ってしまった。 セイボウの仲間はスズバチの仲間に寄生する。 寄主をどうしてまた近い仲間の中から選んだのか、自然界の不思議は絶えない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ゴマナ
Fig.34 ゴマナ
ゴマナは県下では冷涼な地域に生育し、但馬地方の高原地帯では草地から林縁までいたるところで見られ、ノコンギクやオオユウガギクなどとともに路傍や林縁を飾る。 ノコンギクやオオユウガギクよりも湿った場所や湿地を好み、用水路脇や日当たり良い渓流畔では大きな群落を形成することがある。 画像のものはFig.1およびFig.29近くに見られたもので、茎頂部が多数分枝して多くの花序となり、花がたわわに咲いて、その重みで半ば倒れこんでいる個体である。 ゴマナの新芽は天ぷらにするとアクもなく、ぬめり感があってボリュームもあり美味しいものである。 東海・中部地方に居住していた折には、よく山菜として利用したことがある。 地方によっては塩蔵したり、ゼンマイのように乾燥して保存食とするところもあるようだ。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
アキノキリンソウ
Fig.35 アキノキリンソウ
但馬の棚田では早くもアキノキリンソウが満開だった。 ツリガネニンジンやリンドウ、ワレモコウなどとともに秋の里山を代表する植物であるが、兵庫県南部に位置する西宮市の里山ではまだ開花の気配はない。 水分条件がよく、肥沃な土地では多数分枝して画像のように多くの花序を出すが、貧栄養な崩壊地では分枝があまり見られず、一本立ちして長い花序にややまばらに花をつけている。 アキノキリンソウ、ヤクシソウ、リュウノウギク、センブリ、リンドウ、ヤマラッキョウなどの開花が見られるようになると、そろそろ秋も終盤となる。 周囲の土手ではシシウドが結実し、刈り取り後の水田ではミゾソバとヤノネグサが咲き乱れ、畦では花穂を垂れたサヤヌカグサが秋風に揺られていた。
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●関西・秋の花 アキノキリンソウ
ヒメヨモギ
Fig.36 ヒメヨモギ
高原のミズナラ林と農耕地の間が草地となっており、そこにススキやヒメジソなどとともにヒメヨモギの大きな株が多数生育していた。 図鑑にはやや乾いた草地に生育とあるが、乾いたところにも湿ったところにも見られ、草地であればあまりえり好みはしないようである。 兵庫県では高原の草地に見られ、生育場所が限られるためかRDB Bランクとして記載されている。 ヨモギと混生することが多いが、ヨモギよりも頭花は細くて小さく、葉の裂片の幅は狭い。 低地の河川敷などに見られるものはナンゴクヒメヨモギであるが、外見上はほとんど区別がつかない。ナンゴクヒメヨモギも県下では稀な種である。 この日はヒメヨモギのほか、オトコヨモギ、イヌヨモギも見られた。また林道の法面には外来のイワヨモギが見られた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
メハジキ
Fig.37 メハジキ
メハジキは撹乱のある草地、河川敷などに生育し、農耕地の道ばたや放置された湿り気のある造成地などにも出現する。 画像のものはヒメヨモギ、チカラシバ、ススキ、ヒメジソ、イシミカワなどが見られる湿った草地で、1メートルを超える草丈に生長し、 分枝した大きな株となって各茎頂に花をつけていた。 花茎があがる前の根生葉は掌状で、同じ種とは思えないような形をしている。 別名の「益母草(ヤクモソウ)」もよく知られており、婦人病の民間薬として全草を乾燥したものが現在も販売されている。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 メハジキ
オオハシカグサ
Fig.38 オオハシカグサ
オオハシカグサはハシカグサの変種で、萼に毛がないものをいう。 兵庫県産維管束植物のリストには記載はなく、特に区別されることなく全てハシカグサとして扱われているようである。 兵庫県内ではこれまでのところ日本海側のやや高所の棚田2ヶ所で確認している。いずれの場所でも次種のマルバノサワトウガラシが生育する水田の畦に生育していた。 ハシカグサとは萼に毛が無い他にも、草体は大型、果実は大きい、葉にはほとんど毛がない、といった形態的な差異がある。 ハシカグサと分ける必要はないという考え方もあるかと思うが、このタイプのものがハシカグサとは遺伝的にあまり隔たりが無いとは考えにくく、 兵庫県下での分布状況を把握しておくことも必要かと思われる。
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●湿生植物 ハシカグサ
マルバノサワトウガラシ
Fig.39 マルバノサワトウガラシ
マルバノサワトウガラシは兵庫県RDB Bランクに記載されており、分布は県下の北部に偏っている。 但馬地方ではやや高所の棚田に比較的普通に見られ、自生が見られる水田では個体数が多い。 開花は刈り取り後の水田では見られず、夏場に水田が湛水状態となっている時期に開花しているようである。 画像のものは刈り取り後の水田で見られたもので、すでに花期が終わって閉鎖花のみをつける時期となっている。 花は対生する葉の葉腋に付くが、一方では正常花がつき、その花が結実する頃に反対側の葉腋に閉鎖花をつける。閉鎖花をつけない場合はそこから枝を分ける。 この時期に見られるマルバノサワトウガラシは赤紫色に色づいて、刈り取り後の水田でも探しやすい。
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●湿生植物 マルバノサワトウガラシ
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播磨地方の溜池にて
減水した播磨地方の溜池
Fig.1 渇水期の播磨地方の溜池
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溜池渇水期の湿生植物など

播磨地方の湿地や溜池畔のヤマラッキョウやスイランはつぼみが膨らみ、イヌセンブリやリンドウは花芽を出し始め間も無く秋終盤の花の開花が始まりそうです。 現在も丹波地方の湿生・水生植物の分布・生育環境の調査は継続中ですが、県内の特定地域の植相を語る場合は、 それ以外の地域の植相もある程度把握しておく必要があるように思い、今秋は県下では水辺環境が数多く残され、湿生・水生植物が最も豊富に見られる播磨地方に出かける機会を多くつくりました。 丹波地方で生育途上で発見したサイコクヌカボも、播磨地方での詳細な観察のおかげですぐにそれと判った経緯もあり、他の地域で見識を積むことが重要なことだと、 今更ながら思ったからです。 播磨地方の水辺は奥深く、全てを見て回ることは不可能ですが、何箇所かポイントを定めて、その場所を詳細に観察することでだいたいの傾向は掴めるはずだと考えています。
今年の夏の猛暑が影響して、各所の溜池は昨年よりも水位が低く、水底の多くの部分が露出している溜池が目立ちました。 また、播磨地方では秋期に水抜きをして管理する溜池も数多く見られ、そのような溜池では毎年、干上がった池底に生育する小型のカヤツリグサ科草本の生育が見られます。 今回は播磨地方を特徴づける湿生・水生植物を紹介するとともに、干上がった溜池に見られる小型の草本を中心として秋の賑やかな水辺の光景を紹介します。

ホシクサ
Fig.2 溜池畔のホシクサ
ホシクサは兵庫県下では水田で見られることが多く、圃場整備によって減少しRDB Cランクとされている。 播磨地方では平野〜丘陵部の溜池畔にも生育が見られる。おそらく阪神間などでも、かつては平野部にあった溜池にも生育していたであろう。 西宮市内でも生育していてもおかしくはないが確認することができず、シソクサ、アブノメなどとともに幻の水田雑草である。
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●湿生植物 ホシクサ
オオホシクサ
Fig.3 オオホシクサ群落
オオホシクサは兵庫県下で播磨地方と西神戸のみに見られるが、播磨地方では多産し多くの溜池で見られる。 頭花はホシクサよりも大きく、ホシクサの頭花が径約4mmに対して、オオホシクサは径約6mmで草体も大型である。 頭花が白く目立つところから、東海地方に生育するシラタマホシクサと間違える人がいるが、シラタマホシクサの総苞は反り返り、 合着した萼の先が突出して金平糖のように見えることにより容易に区別できる。
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●湿生植物 オオホシクサ
イヌノヒゲ群落
Fig.4 イヌノヒゲ群落
イヌノヒゲは県下に広く見られ、ホシクサ科植物のなかでは自生地・個体数ともに最も多い種であり、イヌノヒゲが出現する場所では他に稀少な種が現れる確率が高い。 生育環境も休耕田から湿地、溜池畔と幅広く、溜池畔では水際近くの裸地〜半裸地に生える。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 イヌノヒゲ
ツクシクロイヌノヒゲ群落
Fig.5 ツクシクロイヌノヒゲ群落
ツクシクロイヌノヒゲは水位に増減のある溜池によく適応したホシクサ科植物で、比較的水位の高い場所にも生育でき、水位が低下しない場合は花茎を50cm近くまで伸ばして、 水面上で頭花を開花する。 溜池畔の泥上にも見られるが、画像のように溜池畔の粘土質土壌の表土の浅い岩礫地のような場所で密な群生を見かけることが多い。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ツクシクロイヌノヒゲ
開花したミズトラノオ
Fig.6 ミズトラノオ
ミズトラノオは播磨地方の溜池畔に生育する湿生植物を代表する種であり、環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Bランク種とされ、保護活動も盛んに行われている。 かつては丹波地方でも見られたようだが、現在では確認することはできない。 ミズトラノオが生育する溜池では、他にも多数の稀少な植物が生育していることが多く、この溜池ではミカワシンジュガヤ、ゴマクサ、イヌセンブリ、アイナエなどが見られた。
今年は猛暑のためか例年よりも開花が遅く、生育規模もかなり減少しており、地表を這いまわる匍匐茎がほとんど見られなかった。 今年のような猛暑が今後も続いていくとすれば、近年のうちに絶滅してしまうことが充分に考えられる。
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●湿生植物 ミズトラノオ
ゴマクサ
Fig.7 ゴマクサ
ゴマクサもミズトラノオとともに播磨地方の水辺を代表する湿生植物であり、分布域はオオホシクサとほぼ重なるが自生地は局限され個体数も少なく、 ミズトラノオ同様、環境省環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Bランク種とされている。 自生地ではイヌノハナヒゲ、ミカワシンジュガヤ(兵庫県RDB Bランク)、カリマタガヤ、カモノハシ、トダシバなどとともに生育していることが多い。 ゴマノハグサ科には近くに奇主があれば寄生するという半寄生植物が多く、葉も小さなゴマクサも半寄生植物であるとする説もあるため、 この中に奇主があるとすれば、多年草のイヌノハナヒゲかカモノハシ、トダシバあたりだろうか。
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●湿生植物 ゴマクサ
ヌマカゼクサ群落
Fig.8 ヌマカゼクサ群落
ヌマカゼクサは近畿地方を中心として岡山・四国東部・北陸・東海地方にかけて生育し、自生地はやや局所的であるが、兵庫県下では播磨地方の多くの溜池畔に見られ、 画像のように群生している箇所も多く、ごく普通の種である。 県外の自生地では愛知県をのぞいた8つの県で絶滅危惧種に指定されている。 スズメガヤ属の中では湿生植物は数少なく、溜池畔の水位に増減のある水際に生育し、多少水没しても平気な草本である。 同属で同様な環境に生えるというコゴメカゼクサは県内で見かけたことはなく、移入の可能性があることから「要調査種」とされている。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヌマカゼクサ 
スズメノコビエ
Fig.8 スズメノコビエ
スズメノコビエはスズメノヒエに似て、やや小型で地味な草体で関心があまり向かない種であるが、ミズトラノオやゴマクサ同様、兵庫県下では播磨地方に自生地が偏る。 自生地は局限されるため兵庫県RDB B種に指定され、近畿地方の他府県でも絶滅危惧種となっている。 図鑑では草地や荒地に生育するとなっているが、県下では溜池畔の被植の少ない比較的貧栄養な粘土質土壌に点在して見られることが多い。 画像のものは減水した溜池畔の上部にシロイヌノヒゲ、サワトウガラシ、ヒナザサ、ヌメリグサ、メリケンカルカヤ、丈の低いヌマトラノオとともに生育している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 スズメノコビエ
溜池畔の湧水箇所
Fig.10 湧水箇所の1年生草本
干上がった溜池底斜面の軟泥の溜まった小規模な湧水の滲出部分に多くの1年生湿生植物が見られた。 多くの部分がヒナザサとマツバイによって占められ、画像に見えるイボクサ、イヌノヒゲ、オオホシクサのほか、ツクシクロイヌノヒゲ、サワトウガラシ、フタバムグラ などが生育している。
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●湿生植物 ヒナザサ  ●湿生植物 マツバイ  ●湿生植物 イボクサ
クログワイ群落
Fig.11 クログワイ群落
干上がった溜池の窪地部分にクログワイの密な群落が形成されていた。クログワイの生育している部分だけ軟泥が堆積しており、周囲は礫混じりの粘土質土壌である。 クログワイは軟泥中に柔らかい根茎を伸ばして栄養繁殖するが、硬い粘土質の土壌には根茎が侵入できないため、きれいな円形を描いたように群生している。 群生の中央には野生動物が走りぬけた跡が見える。 周囲の礫地とクログワイ群落の組み合わせは、まるで高山帯に見られるミヤマホタルイが群生する池塘を思わせた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生〜抽水植物 クログワイ
サワトウガラシ
Fig.12 色づいて開花したサワトウガラシ
撮影地ではこれも礫の多い粘土質の場所に多く見られ、まるで高山植物を思わせるかのように、濃い紫色の花を多数開花していた。 サワトウガラシは兵庫県南部の溜池でよく見かける種である。溜池に生育するものは晩秋の霜が降りるころまで開花が見られるが、 水田に生育するものは今ぐらいの時期には閉鎖花ばかりが見られ、開花しているものを見ることはない。 溜池に生育するものが水田に生育するものとは変種や品種、ましては別種であるとは考えにくく、どのような生理的な機構が働いてそのようになるのか興味深いところである。
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●湿生植物 サワトウガラシ
ヒナノカンザシ
Fig.13 ヒナノカンザシ
ヒナノカンザシは湿地の被植の少ない場所や溜池畔の貧栄養で表土の少ない場所に生育する1年生の湿生植物である。 自生地はそれほど多くは無く、兵庫県RDB Cランク種とされ、西宮市内の甲山湿原にあるというが私自身は市内での生育はまだ確認できていない。 分布の中心は播磨地方にあり、溜池畔や湧水湿地などに生育しているが、花の大きさは2mm程、葉の長さも8mm程度の小さな草本で、 よく眼を凝らして探さない見つからない草本である。
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●湿生植物 ヒナノカンザシ
矮小化したカガシラ群落
Fig.14 矮小化したカガシラ群落
前回のフィールド・メモでも撹乱の多い湿地のものを紹介したが、今回は播磨地方で新たに発見したもので、干上がった溜池畔の狭い一画に非常に多くの個体が群生していた。 水際に近いものは発芽して間も無く開花しており、草丈1〜3cmで結実しているものも多く見られた。 シンジュガヤ属の草本は南方系であるため、県内でも南部に行くほど自生地は多くなり、カガシラもその例に漏れず、播磨地方に自生地が多い。 ここでは表土の浅い礫混じりの粘土質土壌に、同様な環境でも生育できるヒメカリマタガヤ、シロイヌノヒゲ、ミミカキグサや、 小型のヒメヒラテンツキ、クロテンツキとともに見られた。 このような場所はメリケンカルカヤの侵入が著しく、どのような影響を与えるか注意が必要だと考えられる。
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●湿生植物 カガシラ
オオシロガヤツリ
Fig.15 オオシロガヤツリ
前回は干上がった溜池畔や池底に出現する種としてメアゼテンツキを取り上げたが、今回は播磨地方の溜池で見られた4種を紹介したいと思う。 オオシロガヤツリは県内では播磨地方の平野部の溜池や河川敷などが分布の中心域で、自生地での個体数は多いが、自生地自体は少ない。 アオガヤツリの変種であるが、よく似た環境に生育するアオガヤツリを含めた近縁種とは、小穂には鱗片が螺旋状につき、扁平とはならない点で区別される。
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●湿生植物 オオシロガヤツリ
ヒメアオガヤツリ
Fig.16 ヒメアオガヤツリ
ヒメアオガヤツリは県南部に広く分布するが、オオシロガヤツリとともに自生地の少ないカヤツリグサ科草本である。 撮影した溜池では例年はもっと小さな個体が見られるのだが、今年は夏場にほとんど雨が降らなかったため、池が干上がり始めるのが早かったようで、 例年よりもよく成長した個体が生育していた。 本種は小穂が扁平でやや外曲し、とがった長楕円形の痩果の稜に翼がないことにより近似種と区別するが、その作業が面倒なため顧みられないことが多い。 比較的自生地が少ない種なので、是非注意していただきたい草本である。
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●湿生植物 ヒメアオガヤツリ
アオガヤツリ
Fig.17 アオガヤツリ
今回取り上げたカヤツリグサ科の小型草本のなかでは最も普通に見られる種であり、干上がった溜池ではメアゼテンツキとともによく見られる。 干上がった溜池ばかりでなく、河川敷などにも出現し、そのような場所に生育するものは生育期間が長くなるため、花序を多数放射状に広げて大きな株となる。 本種は小穂が扁平、痩果は倒卵形であることから他種との区別はたやすいほうである。
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●湿生植物 アオガヤツリ
アオテンツキ
Fig.18 アオテンツキ
アオテンツキは似たものの多いカヤツリグサ科テンツキ属のなかでも、特徴的な球形の小穂を持つことによって容易に区別できる。 分布は県南部に偏り、摂津・阪神では自生地は少なく、播磨地方には自生地が比較的多く見られる。 痩果を拡大して見ると縁には不定形の突起が並び、ユニークな形状をしており面白い。 これらの干上がった溜池に出現する種は、秋期に水抜きされる溜池でよく見られる種であり、水抜き管理されることが少なくなった現在、見かけることが稀となった種である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アオテンツキ
ウキシバ
Fig.19 渇水期のウキシバ
干上がった溜池畔の泥上で小型化した個体が花序を出し始めていた。 ウキシバの開花はふつう7〜8月であるが、溜池が干上がって水分供給量が少なくなり危機的状況に陥ったため、花序を生じたものだろう。 草体は地表を四方に広がり、節間は詰まって、まるでシバそのもののようにも見える。 通常、この時期のものは水面上に浮葉のように葉を浮かべるだけで、花序を出していることはない。
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●湿生植物 ウキシバ
溜池畔の外来種群落
Fig.20 播磨地方の溜池畔の外来種群落
播磨地方には平野部にも数多くの溜池が散在しており、国道など主要道路に面した溜池などでは多くの外来種が見られる。 この溜池ではオオホシクサ、シロイヌノヒゲ、ツクシクロイヌノヒゲ、ヘラオモダカ、ヌマカゼクサ、スズメノコビエ、サワトウガラシ、タチモなど豊富な湿生植物が生育するが、 画像に見られるようにミズヒマワリ、オオバナミズキンバイ、キショウブ、メリケンムグラが侵入して場所により密生している。 かつてはメリケンムグラが一気に広がったが、現在ではオオバナミズキンバイがメリケンムグラに覆いかぶさるように走出枝を広げて侵略しており、勢力が最も強いように見える。
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ミズヒマワリとメスグロヒョウモン
Fig.21 ミズヒマワリを訪花するメスグロヒョウモン
ミズヒマワリは中・南米原産の帰化植物で、葉や枝などの草体の断片からでも再生する繁殖力旺盛な多年生草本。 主に大河川に定着しており、琵琶湖淀川水系では大繁殖して水草を駆逐するため、駆除作業が行われており、環境省の特定外来植物に指定されている。 西宮市内では武庫川に定着しているのを確認している。 ミズヒマワリは一方では蝶の蜜源としてもよく知られており、この時期、ミズヒマワリの花が出す誘引物質に誘われてアサギマダラが訪花していることが多く、 ここでも5匹ほどが見られ、画像のメスグロヒョウモンの他、ツマグロヒョウモン、キチョウ、セセリチョウの仲間が訪花していた。 アサギマダラのマーキングを行う昆虫愛好家にとってはミズヒマワリの生育は歓迎されることだろうが、その凄まじい繁殖力と草体の大きさから駆除されるべきものである。 この場所には大株が見られるが、ミズヒマワリを凌ぐ勢いでオオバナミズキンバイが増殖し、ミズヒマワリは溜池畔の一画に囲い込まれているような状況であった。
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●湿生植物 ミズヒマワリ
オオバナミズキンバイ
Fig.22 オオバナミズキンバイ
オオバナミズキンバイは2007年に撮影地である池で最初に発見された侵略的外来種であり、まだ図鑑には載っていない種である。 花は絶滅危惧種のミズキンバイに似て大きく鮮やかな橙黄色をしておりよく目立つ。 ミズキンバイに似るが、気中形では茎も葉も毛が多く、どちらかというと同じアカバナ科のマツヨイグサの仲間を思わせ、区別は容易である。 一方、水中から伸びた走出枝につく水中茎ではミズユキノシタに似た小型で無毛の倒卵形の葉をつける。
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●湿生植物 オオバナミズキンバイ
紅葉したメリケンムグラ
Fig.23 紅葉したメリケンムグラ群落
メリケンムグラは北米原産の帰化植物で、1950年代の標本があることから、かなり昔から序々に定着していったものと見られ、播磨平野の水田の畦や溜池畔に多く見られる。 特に栄養状態の良い畦では全面がメリケンムグラによって覆われている場所もあり、やや富栄養な溜池では他種の侵入を許さないほど密生している箇所もある。 沈水状態にもよく適応し、果実は硬いコルク質の内果皮によって包まれて水に浮くため、水域を中心に急速に生育領域を広めたものと考えられる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 メリケンムグラ
ナニワトンボ
Fig.24 ナニワトンボ
ナニワトンボは成熟すると体色が「青く」なるアカトンボの仲間で、各地で減少傾向にあり、環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Cランク種とされている。 西宮市内では見たことがなく、播磨地方の丘陵部の減水した溜池でよく見かける。 生育条件は樹林に囲まれた、減水する自然度の高い溜池とのことである。 ここでは他にヒメアカネ、マユタテアカネ、リスアカネが確認できたが、肉眼での判別は私には難しく、画像をいろいろな角度から撮って帰宅した後に調べることにしている。 したがって動きが素早く画像に撮れなかったトンボは、結局どんな種類か解らず仕舞いとなる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
マユタテアカネ
Fig.25 マユタテアカネ
マユタテアカネは顔面にヒゲのような太いマユがあることで、肉眼でも区別しやすい種である。前種のナニワトンボと違って普通に見られ、西宮市内の溜池にも多く見られる。 太いマユが現われない個体もあって、さらにこの仲間は変異がいろいろとあるようで、そうなると私などには画像撮影だけではお手上げとなる。 採集して詳しく調べれば判るのであろうが、今のところ植物のほうで手いっぱいで、そこまで手が回らないのが現状。
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漂着したイバラモ
Fig.26 漂着したイバラモの切れ藻
播磨地方の山間のやや腐植栄養質な溜池畔にイバラモの切れ藻が漂着していた。漂着しているものを全て集めたところ23個あり、その長さはほぼ一定していた。 長さがほぼ一定しているということは、切れ藻になにか一定の仕組みらしきものがあることが予感された。 詳しく調べてみたところ、いずれの切れ藻も切れた最下の葉腋に付いた果実は成熟しており、それより上部につく果実は成熟途上であった。 同じ溜池内の23個では事例が少ないが、枝上の果実が熟すと、その部分から先が離脱して浮遊し分布域を広げる仕組みがあるのではないかと予想される。 ことの解明は来年の研究課題としたいが、すでにどこかで報告されているかもしれない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●沈水植物 イバラモ
クロモの雄花
Fig.27 浮遊するクロモの雄花
掲載当日、画像の花はセキショウモのものとしていたが、雄蕊は3個あり、セキショウモではなくクロモの雄花であることが判明した。 水底に広くセキショウモが見られ、水面上に雌花を数多く出していたので、セキショウモの雄花だと早とちりしてしまった。お詫び申し上げますm(_"_)m
Fig.26の溜池ではイバラモの他にイトモ、キクモ、ヒツジグサ、ジュンサイが見られたほか、セキショウモが水底を広く覆っており、折りしも開花最盛期で、長い柄を持った雌花を水面上に点々と出していた。 水面上にはトチカガミ科のものの雄花と思われるものが多数浮遊していたので、セキショウモの雄花だろうと思っていたが、雄蕊は3個あり、後の調べでクロモの雄花と判明した。 ということで、セキショウモの雄花を撮影することがこれからの課題となった。時期的にはまだ間に合いそうである。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●沈水植物 クロモ  ●沈水植物 セキショウモ
休耕田の沈水植物群落
Fig.28 休耕田の沈水植物群落
場所は変わって丹波地方の谷津際奥にある休耕田で見られたものである。 休耕田はかなり経年しており、中央部はマシカクイ、チゴザサ、ヤノネグサ、ヤマイ、アブラガヤなどが生育して多少遷移が進みつつあるが、 山寄りにはかつての素掘りの排水路が湛水状態で残存し、昨年はコナギ、キクモ、ホッスモ、ミズハコベ、エゾノサヤヌカグサ程度しか確認できなかったが、 今年は新たにスブタとヤナギスブタが確認できた。 画像中央付近にはスブタが、左にシャジクモに埋もれながらヤナギスブタが、画像右上部にはピンボケのホッスモが見えている。 野生動物による撹乱のある場所であり、撹乱が幸いしたのか、 あるいは今年の猛暑がスブタの生育に適していたのかもしれない。 スブタの大きな個体では径15cmほどのものが多数見られた。
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●沈水植物 スブタ  ●沈水植物 ヤナギスブタ  ●沈水植物 ホッスモ
ミズネコノオ
Fig.29 ミズネコノオ
昨年調査した丹波地方の水田に生育しているミズネコノオの様子を見に行った。 水田、ミズネコノオともに健在で、生育状況も昨年と変わらず、ところによっては足の踏み場もないほど生育している。 昨年は同じ水田でシソクサやスズメノハコベも生育していたが、シソクサは昨年よりも多く見られたが、スズメノハコベは生育が確認できなかった。 今のところ水田に大規模な土壌改良などの手が加わらない限りはミズネコノオは安泰のように思われる。 来年もまた生育状況を確認しに行く予定である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ミズネコノオ


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