西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2010年 11月

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晩秋のフィールド・その2
溜池畔の草紅葉
Fig.1 紅葉した溜池畔のチガヤ群落
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紅葉とシーズンの終了

1日の最高気温も15℃を下回りはじめ、北風が吹く日も多くなり、西宮市内では時折、六甲颪も吹くようになりました。 タデ科やカヤツリグサ科の草本もすっかり結実・落果して枯れはじめ、いろいろと課題を残したまま観察シーズンが終わろうとしています。 溜池畔や土堤ではチガヤが鮮やかに草紅葉して眼を惹きます。しかし、この時期まで開花している花はごくわずか。 リンドウ科やキク科の草本ぐらいのもので、ちょっと淋しい時期です。 溜池に行けばどこにでも沢山見られたトンボ類もすっかり見かけなくなり、時折見かけるのは越冬間近のキチョウやキタテハ、アカタテハなどのタテハチョウの仲間がフラフラと飛んでいるくらいです。 これから先、春までは結実や越冬の様子など、限られた少ないネタと華のない濃緑色や褐色といった地味な画像ばかりで、その数も少なくなると思います。 トップ・ページの更新は少なくなるかと思いますが、撮り溜めた画像でアップできていないものが沢山あるので、各ページの更新や新しいページの立ち上げはこれまでと変わらず継続していく予定です。 新たに立ち上げるページは湿生・水生植物に次いで、近年減少傾向にある草原性の草本を「関西の花」で優先的に扱っていこうと考えています。 湿地や溜池、休耕田の保全には、それを含めた里山全体の環境を人為的な営為とともに維持継続することが不可欠で、人為的営為の結果として棚田の土手や溜池土堤に創出された草原環境が、 多くの草原性草本の生育温床となっており、草原環境に生育する特徴的な草本をできるだけ紹介する必要性を感じるからです。 人の踏み入らない場所にひっそりと生育しているものはたとえ稀少種であろうとも、開発が行われない限りは生を繋いでいけるでしょう。 しかし、人為的な営みに生育条件が合致し、そこに定着したものは人為的な営為に依存していかないと生を繋ぐことはできません。 今回紹介するナガボノワレモコウもそのような種です。

スイレン根茎の浮島
Fig.2 スイレンの根茎による浮島
この溜池は水深が浅く、どうも違和感があるなあと思っていたが、浅瀬や浮島状の場所はスイレンの根茎が繁茂しすぎて、自身の根茎の浮力で浮かび上がり陸地や浮島となっているものだった。 スイレンは根茎を旺盛に伸ばして広がり、古い根茎も残る。 そういった根茎が長年経て、地中で層状に広がって、浮島となったもので、浮島自体やその周辺から、根茎から展出した小さな葉が無数に見える。 岸辺には太い根茎とともに吹き寄せられた生体も沢山見られた。こうなってしまえば、他の水生植物が生育する余地が全くなくなってしまう。 画像の浮島上に見られる草本はヒレタゴボウで、かなり大きな規模の浮島はメリケンカルカヤが隙間なく群生していた。 ここの溜池畔ではゴマクサ、ヤマラッキョウ、ミカワシンジュガヤ、イヌノハナヒゲ、カンガレイ、スズメノコビエ、ヌマカゼクサ、サイコクヌカボ、オオホシクサ、ツクシクロイヌノヒゲなど、 稀少種を含む豊富な湿生植物が見られるだけに残念である。 近くの農家の方によると、池底のほぼ全体にわたって太い根茎が広がっており、手の打ちようがないとのことであった。 やはり、溜池に安易にスイレンを投げ込むべきではないだろう。
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●浮葉植物 スイレン (温帯スイレン)
晩秋の溜池畔
Fig.3 晩秋の溜池畔
溜池畔の湿原ではヤマラッキョウが満開で、土堤ではツリガネニンジンが咲き残り、アキノキリンソウやヤクシソウが満開。刈り込まれたコガンピは美しく黄葉していた。 画像は湿原と溜池土堤のちょうど境界付近を撮影したもので、咲き残りのオミナエシも見られ、過ぎ行く秋の最後に飾るように賑やかな光景が展開していた。 傍らでは紅葉したヌマトラノオ、刮ハの開いたミズギボウシ、沢山の果実をぶら下げたタヌキマメ、すっかり落果してしまったミカワシンジュガヤ、 少し褐色を帯びたサワシロギクのわたぼうしなどが見られ、ここではすでにホソバリンドウの開花は終わっていた。
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白花ヤマラッキョウ
Fig.4 シロバナヤマラッキョウ
シロバナヤマラッキョウはヤマラッキョウの白花の品種で、ヤマラッキョウが群生する場所ではそれほど珍しくはなく、割と見かける。 ここでは8個体の生育を確認した。シロバナヤマラッキョウは母種のヤマラッキョウと比べると、花序につく花数がやや少ない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヤマラッキョウ
キセルアザミの花
Fig.5 キセルアザミの花
キセルアザミは好きな花のうちのひとつで、見事に開花している花を見ると、ついつい撮影してしまう。 集葯雄蕊の少し青味を帯びた紅色と、管状花の紅色、花柱の濃紅色のグラデーションが美しい。
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●湿生植物 キセルアザミ
ヌマダイコン
Fig.6 ヌマダイコン
溜池畔の湿地で刈り込みに遭ったヌマダイコンが開花していた。刈り込みに遭わなければ大きな草体となるのだが、ここでは地表近くで分枝し、這うように広がって短い花茎を上げて開花・結実していた。 痩果は腺点に覆われて粘液を出し、先端の突起には腺毛を並んでいて粘液を出して、衣服などに引っ付く。痩果の撮影の際にはピンセットからなかなか離れず手を焼いた。
痩果表面が平滑で、乾いた場所に生育するものはオカダイコンとして区別され、ヌマダイコンより南方系の草本のようである。
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●湿生植物 ヌマダイコン
トウカイコモウセンゴケ
Fig.7 真っ赤なトウカイコモウセンゴケ
溜池畔の固い粘土質の半裸地で、トウカイコモウセンゴケが真っ赤に色づいていた。 コモウセンゴケと似るが、ここの個体は明らかに葉身の柄状の部分が長く、苞葉を調べるまでもなくトウカイコモウセンゴケだとわかる。 開花は初夏から夏となっているが、播磨地方では6月から11月まで連続的に花茎を上げているものをよく見かけ、画像の個体も花茎をあげつつある。 周辺にはイヌノヒゲ、ミカワシンジュガヤ、イヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ホソバリンドウ、スイラン、キセルアザミ、サワヒヨドリ、オミナエシなどが見られた。
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●湿生植物 トウカイコモウセンゴケ
イガクサ
Fig.8 イガクサ
久々に溜池畔でイガクサを見た。果実期を過ぎた晩秋になっても花茎は倒れず、画像のように弓なりになって、頭状の花序が残っていることが多く、生育していればよく目立つ。 兵庫県のRDBに指定されていないが、見かける機会の少ないカヤツリグサ科の草本である。湿地内よりもその周辺の被植の少ない粘土質の半裸地に生育していることが多い。 ここでは地表を覆うハイゴケやコスギゴケ、ジョウゴゴケなどの蘚苔類や地衣類の間に、背丈の低いミカワシンジュガヤ、矮小化したネザサ、イトイヌノハナヒゲ、アリノトウグサ、 テリハノイバラ、次に紹介するセンブリなどとともに生育していた。
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●湿生植物 イガクサ
センブリの花
Fig.9 センブリの花
イガクサやミカワシンジュガヤなどとともに生育していたので、見つけたときはイヌセンブリではないかと思ったが、花冠の蜜腺溝が毛の間からよく見えており、センブリであった。 イヌセンブリは花冠の蜜腺溝のまわりに縮れた長い毛が生えるため、蜜腺溝は毛に隠れて見えない。この他、イヌセンブリはセンブリよりも葉幅が広く、基部付近の葉は長楕円状となる。 センブリは痩せた土壌の日当たり良い道ばたや被植の少ない崩壊地などでよく見かける。全草を乾燥させたものは胃腸薬の「当薬」としてよく知られている。
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●関西の花 センブリ
ナガボノワレモコウ
Fig.10 ナガボノワレモコウ
ナガボノワレモコウは湿地や湿った草原に生育する多年草で、兵庫県では自生地が限られRDB Aランク種とされている。 東日本のものはナガボノワレモコウで、西日本のものはコバナノワレモコウとすることもあるようだが、変異は連続的であるとされ、本サイトではナガボノワレモコウとした。 また、花序が赤いものをナガボノアカワレモコウ、白いものをナガボノシロワレモコウとすることがあるが、自生地では白花と赤花が混生することもあり、 画像を撮影した場所では淡紅色の個体も見られ、その境界は曖昧で本サイトではまとめてナガボノワレモコウとする見解をとった。
文献:Mishima,M. Iwatsubo,Y. Horii,Y. and Naruhasi,N. 1996.
Intraspecific polyploidy of Sanguisorba tenuifolia Fisch. (Rosaceae) in Japan.
J. Phytogeogr. & Taxon. 44:67〜71.
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●湿生植物 ナガボノワレモコウ
ナガボノワレモコウ自生地
Fig.11 ナガボノワレモコウ生育環境
自生地は溜池土堤の外面で、他種の自生地の調査の帰途に車窓から土堤が見えたので立ち寄ってみたところ、偶然に発見したものである。 帰宅してK先生に該当する地区からの記録があるかどうかお伺いしたところ、すぐ隣の地区からの記録があるとのことだった。 もしかして付近一帯はナガボノワレモコウの生育密度の高い地域かもしれないと思い、後日周辺一帯を詳しく調べた。 その結果、溜池土堤を中心とした半径約100mの溜池土堤や用水路脇に100個体以上花茎を上げている個体が生育していることが解ったが、分布密度が高いとまではいかない結果となった。 今後は記録のあった隣の地区の生育状況も調べる必要があるだろう。 自生地の溜池土堤はいずれもチガヤ群落が優占し、刈り込まれたネザサ、セイタカアワダチソウ、ナワシロイチゴ、ツリガネニンジン、ヨモギが多く、最も個体数の多かった土堤ではヤマラッキョウの群落が見られた。 土堤直下には排水路を兼ねた3面コンクリート張りの幅1mの水路があり、その周辺に最も多く、水路対岸の水田の畦にも生育が見られた。
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返り咲きしたタツナミソウ
Fig.12 返り咲きしたタツナミソウ
今年は例年よりも春や初夏に開花する草本が返り咲きしているのをよく見かける。 閉鎖花をつける草本は返り咲きがよく見られ、タツナミソウは毎年どこかで返り咲きしているのを見かけるが、今年は見かける回数も個体数も非常に多い。 画像のものは溜池土堤に生育していたものだが、一画では満開のヤクシソウとともにかなりの個体が開花しており、なかなか面白い光景であった。
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●関西・初夏の花 タツナミソウ
不時開花したニガナ
Fig.13 秋開花のニガナ
ニガナは春〜初夏に開花しているのが目立つが、盛夏に一旦ロゼット状となって休眠した後、秋期に再び花茎を上げているものも多い。 このように秋に開花するニガナは葉幅が狭い根生葉を立ち上げ、花茎につく葉も葉幅が非常に狭く、茎を抱いていないようにも見えるため、ホソバニガナかと思ったことが何度かあった。 しかし、よく観察すると盛夏に休眠した倒卵形の根生葉も残っていることが多いので、基部にある葉をよく確認すれば間違えることはない。
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●湿生植物 ニガナ
紅葉・開花したリンドウ
Fig.14 紅葉・開花したリンドウ
草深い休耕された棚田の土手にリンドウが紅葉しながら開花していた。草刈りをされていないので、ほとんどの個体は背丈は80cmほどに伸びて、他の草本にもたれかかって生育している。 各節に花をつけ、茎頂にはひときわ数多くの花をつけ、他の草本が冬枯れしてゆく中よく目立つ。 他の草本に囲まれて生育しているものは、まだ緑色を保っていたが、倒伏した草本の上にのしかかっているものや、半裸地状の場所のものは葉が赤紫色に紅葉していた。
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●関西の花 リンドウ
ナメラダイモンジソウ
Fig.15 ナメラダイモンジソウ
西宮市内の渓谷の岩壁にはナメラダイモンジソウが生育している場所が数ヶ所ある。 画像のものはそのうちもっとも標高の低い場所に生育しているもので、花崗岩の水のしみ出す岩壁の割れ目に十数個体が根を下ろしている。 岩壁にはノガリヤスやタチシノブ、トラノオシダ、ヒカゲスゲが多く、谷筋の別の岩壁ではコチョウショウジョウバカマ(シロバナショウジョウバカマ)が見られ、 少し下流側には渓畔に大きなヒトモトススキが生育する。 ダイモンジソウの個体数は少ないが、市内ではいろいろな草本が見られる面白い場所である。
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●関西の花 ナメラダイモンジソウ
紅葉したヨツバムグラ
Fig.16 ヨツバムグラの紅葉
野暮用があって岡山県北部を訪ねる機会があった。その際に空き時間を利用して、4ヶ所の溜池に立ち寄った。 うち1ヵ所の山間の谷池の土堤の護岸の隙間に結実したヨツバムグラが数多くみられ、一部の個体が紅葉していた。 茎と葉の中央脈を緑色を残して紅色に染まり、鮮やかな色のコントラストが美しい。 土堤では多くの草本が枯れ、冬越しのネジバナのロゼットが地表に張り付くように生え、いよいよ冬の到来は間近となっている。 ここでは、オトギリソウも美しく紅葉していたが、多くの個体の茎下方の葉は落葉してしまった後だった。 こういった、小さな草本の草紅葉は遠景では目立たないので、あまり注目されないが、近づいて観察すると色のコントラストやバリエーションに無限の幅があり、非常に奥深い。
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ミズニラ
Fig.17 晩秋のミズニラsp.とその幼個体群@岡山県北部
ナラガシワ林に囲まれた水の澄んだ谷池の水底や池畔に多数の個体が生育していた。 溜池畔のものは葉が寒気にあたって黄変し、くたびれた様子だったが、水底のものはまだ草体がしっかりとしていた。 水域には殖芽をつけて枯れつつあるイトモ(岡山県では絶滅危惧T類)、すでに落果してしまったトリゲモsp.、キクモが見られ、丹波地方の溜池との類似性が認められたので、ミズニラであろうと思っていたが、 帰宅して岡山県のRDBを調べると、岡山県ではミズニラよりもミズニラモドキの方がふつうに見られるようで、ミズニラの自生地はわずか1ヵ所しかないという。 標本を持ち帰ったが、まだ胞子を調べる時間がなく、現在のところ同定はできていない。 溜池畔ではヤナギタデ、ミズニラsp.、ミゾカクシがもっとも多く見られ、マツバイ、オオハリイ、キクモ、枯れ果てたシロガヤツリ亜属sp.、アゼナ、コウガイゼキショウ、タネツケバナ、オオバタネツケバナ、 ミズユキノシタ、キツネアザミ、キツネノボタン、ニョイスミレ、数種のスゲ属草本などが生育し、時期を変えて再訪したいと思わせる場所であった。
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参照 : ●湿生〜抽水〜沈水植物 ミズニラ
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晩秋のフィールド
休耕田のスイラン
Fig.1 溜池直下の休耕田で咲き乱れるスイラン ●湿生植物 スイラン
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シーズン最後の花々と兵庫のクロホシクサ

いよいよ11月に入り、湿生・水生植物の観察シーズンも終盤に入り、あそこもここもまだ行ってないぞ、と気ばかりが焦ってしまいます。 今年の課題としたことの多くもなかなか消化できないまま終わってしまいそうです。 気持ちの焦りとは裏腹に、フィールドに出るとシーズン終盤の草花が咲き誇って眼を惹きつけて止みません。 前回紹介したタデ科のほか、キク科やリンドウ科の草本が満開です。 野ギクの仲間ではそろそろオオユウガギクやノコンギク、シラヤマギクが最盛期を過ぎ、リュウノウギク、イナカギク、ケシロヨメナ、ヤマジノギク、ヤクシソウなどが満開となりつつあります。 イナカギクとケシロヨメナの区別についてはフィールドでは迷うことがしばしばです。 湿地ではサワシロギクにかわってスイランが盛りとなり、ホソバリンドウ、イヌセンブリ、ヤマラッキョウなどが秋の斜光に照らされて鮮やかに映ります。 自然度の高い溜池直下にある湿地化した休耕田ではスイランが咲き乱れている場所も多く見られます。 Fig.1画像もそんな場所で、イヌノハナヒゲ、コシンジュガヤが群生する中、かなりの個体数が見られ、キセルアザミやタムラソウなどとともに開花していました。 ここには果実をつけたミズトンボが乱立しており、来年も時期をづらして是非訪れたい場所でした。
今回はこれらの草花のほか、兵庫県では絶滅種となっているクロホシクサが、県内の溜池畔で生育しているのを確認できたことについて記しました。

リュウノウギク
Fig.2 満開のリュウノウギク
リュウノウギクは林縁や棚田の草地の特に急斜面となっている場所によく見られ、斜面から半ばぶら下がって咲いている様子をよく見かける。 兵庫県下では普通に見られ、西宮市内ではイナカギクやノコンギクに比べると数は少ないが、棚田や崩壊地の斜面などでやや普通に見かける。 リュウノウギクはノジギクやシマカンギクなどとともに、多くの小菊系園芸品種の原種となったものだと言われており、確かに葉の様子などは園芸種の菊によく似ている。
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●関西の花 リュウノウギク
ヤマジノギク
Fig.3 バッドランドで生育するヤマジノギク
ヤマジノギクは日当たり良い草地に生育するキク科の草本で、兵庫県下には広く分布するが、身近なフィールドではリュウノウギクよりも見かける機会は少なく、 西宮市内では花崗岩が風化して崩壊地となったバッドランドで生育しているのを見かける。 そのためか、ヤマジノギクは荒れた崩壊地や、乾いた岩山に生育しているという印象が強い。 開花時にはかなりの背丈となり、茎下方の葉は枯れ、四方に倒れこんだりしていて、なかなか良い画像が撮れない種である。
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●関西の花 ヤマジノギク
オギノツメ
Fig.4 用水路脇のオギノツメ
オギノツメは南方系のキツネノマゴ科の草本で、兵庫県下では南部の沖積平野に記録が点在している。 画像は神戸市の溜池に続く水路内に群生していたもので、周辺の用水路脇にも群生がみられた。 多くの個体は葉腋に沢山の果実をつけて開花は終わっていたが、画像のものだけが遅くまで開花していた。 オギノツメは阪神地域の低地の水路脇などに生育していたようだが、開発により溜池や水田は埋め立てられ現在ではほとんど見かけることがなくなり、兵庫県RDB Cランク種となっている。 西宮市内にも古い記録があるが、現在では確認できず、絶滅したものと思われる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 オギノツメ
ゴキヅル
Fig.5 たわわに果実をつけたゴキヅル
ゴキヅルは主に河川敷の氾濫源などに現われるウリ科の草本で、兵庫県RDB Cランク種となっているが、県下の多くの河川で現在も見ることができる。 この時期には多くの果実をつけているのが観察できるが開花も継続しており、昨年の武庫川河川敷では12月に入っても開花していた。 1年草であるが、発芽してからの生長は早く、ナガエツルノゲイトウが繁茂する水辺でも、その上に這い出してナガエツルノゲイトウを覆ってしまうほどである。
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●湿生植物 ゴキヅル
ヌマガヤツリ
Fig.6 ヌマガヤツリ
ヌマガヤツリは大型となるカヤツリグサ科の草本で、草体の大きさのわりには1年草であるためか、地下部の根の発達は悪い。 花序は小穂が密に集まって独特の形状をしており、ぬいぐるみのティディーベアのように見える。 県内では数ヶ所の河川低水敷で確認されているだけで稀な種であると思われる。 兵庫県RDBでは要調査種となっているが、これほど特徴的な花序を持ち大型で目立つものがあまり眼に触れていないということは、自生地は少ないということだろう。
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●湿生植物 ヌマガヤツリ
オオシロガヤツリ
Fig.7 水田のオオシロガヤツリ
オオシロガヤツリは干上がった溜池畔に出現するカヤツリグサ科の1年生草本であり、これまで何度かフィールドメモでも紹介してきた。 分布は播磨地方の平野部に偏っており、西神戸にも記録があるがかなり古い記録である。 このオオシロガヤツリが野暮用ででかけた西宮市内のスーパーマーケットの傍らにある水田に生育していたので驚いた。 母種であるアオガヤツリであれば公園の地表のレンガの隙間などでも見かけることがあるので驚かないが、 本来溜池やまれに河川敷に生育する本種が市街地の水田に出現するとは思いもよらなかった。 おそらく、武庫川下流域が広大な氾濫源であった往時の遺存種であろうと思われる。水田の土壌は砂質であった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 オオシロガヤツリ
クグテンツキとマネキシンジュガヤ
Fig.8 棚田土手のクグテンツキとマネキシンジュガヤ
晩秋の休日、淡路島に記録のあるヒメカンガレイを探しにいった。 淡路島産のヒメカンガレイの標本ラベルには地名の表記はあっても具体的な場所や生育環境は記されておらず、広い地域をあてもなく探すのは雲をつかむようなものである。 案の定、ヒメカンガレイは見つからなかったが数多くの湿生・水生植物を観察することができ、それなりに充実したものであった。 画像は棚田の土手に生育するクグテンツキとマネキシンジュガヤで、クグテンツキは県下では播磨南部と淡路島に見られる南方系のテンツキ属草本である。 マネキシンジュガヤは本州側で見られるものは自然度の高い湿地や溜池畔に生育しており、このような棚田の土手で見るのは初めてである。 この土手にはツリガネニンジン、キキョウ、オミナエシ、リンドウ、シカクイ(狭義)、コガンピ、ヒメアブラススキなどが生育しており、非常に2次的自然度の高い場所であった。 マネキシンジュガヤは淡路島での初めての記録となる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 クグテンツキ  ●湿生植物 マネキシンジュガヤ
ミズスギ
Fig.8 棚田のミズスギ
これも淡路島の棚田で見られたもの。 ミズスギはヒカゲノカズラ科の南方系のシダ植物で、兵庫県では生育環境の減少からRDB Cランク種とされている。 ここではさすが県南部だけあって大きな群落をつくっており、棚田から溜池土堤直下へと続く畦の脇の土壁に延々と生育していた。 この時期は胞子形成期であり、立ち上がって分枝した枝先についた胞子嚢穂が成熟して、多くの胞子を飛散させていた。 県下では数多くの個体が見られる地域と、全く見られない地域があり、県内分布をプロットすると面白いと思われるが、標本はあまり多く採集されていないようである。 ちなみに西宮市内では流紋岩質角礫凝灰岩からなる有馬層群の棚田で最も多く見られるが、いまのところ分布が基岩に左右されるかどうかは解らない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ミズスギ
ウメバチソウ
Fig.10 棚田で開花しはじめたウメバチソウと果実期のカキラン群落
前回は但馬の高原で開花した本種を紹介したが、県南部の里山まで開花前線が南下して、湧水がしみだす棚田の水路脇のものも開花しはじめた。 画像に見られるウメバチソウ周辺の黄化した広披針形の葉はカキランのもので、多くの果実をつけており、ちょうど果実が割れてホコリのような種子を飛散していた。 県南部のウメバチソウはこのように貧栄養な湧水湿地にカキランやイヌノハナヒゲ、ヌマガヤなどとともに出現することが多い。 画像のものは宝塚の溜池に向う途上に見られたものだが、西宮の湿地でも今がウメバチソウの盛りである。 花後も特徴的な仮雄蕊は宿存し、子房がふくらんで卵円形の果実をつける。果実のなかには細かい不完全な翼をもった種子が沢山詰まっている。
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●湿生植物 ウメバチソウ  ●湿生植物 カキラン
タンナトリカブト
Fig.11 谷津林縁で開花したタンナトリカブト
兵庫県下ににはイブキトリカブト、タンナトリカブト、サンインヤマトリカブト、サンヨウブシ、ミツバトリカブトの5種のキンポウゲ科トリカブト属植物が生育するが、 これらの種はいずれも自生地が限られ、しかも区別が難しいためひとまとめにして兵庫県RDBではBランク種とされている。 これらのうちイブキトリカブトとタンナトリカブトは比較的よく見られる種である。 画像のものはタンナトリカブトで茎に毛があり、花柄に顕著な曲がった毛があり、花冠にも多少毛を生じ、花柱・花糸ともに無毛であるのが特徴である。 丹波地方の谷津奥の休耕田と山際が接する林縁に数個体がかたまって生育しており、昨年初夏に若い株を発見し当該小行政区では記録が無かったため標本を採集しようと思っていたが、 開花期に訪れると全ての個体が大型の蛾類の幼虫によって茎ごと食害されており、標本が得られなかったもので、幸いなことに今年は食害を受けておらず標本を採ることができた。 大きな株は倒れ込んで茎の各節に花序をつけて満開であり、すでに未熟な果実を形成していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ホソバリンドウ
Fig.12 溜池畔湿原のホソバリンドウ
秋の湿地では見慣れたものなのに、綺麗に開花しているものを見るとどうしても撮影したくなる種である。 ホソバリンドウは湿地に適応した葉身の細いリンドウの品種で、兵庫県下では南部に分布しており、西宮市内でも比較的数多く見られる。 兵庫県の東部では三田市までは湿地で普通に見られるが、北上して丹波地方に入ると、自生地は極端に少なくなり、数ヶ所確認できたに過ぎない。 丹波地方を含む中〜北部では、湿地に見られるものは葉幅の広い普通のリンドウとなる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ホソバリンドウ
ムラサキセンブリ
Fig.13 ムラサキセンブリ
ムラサキセンブリはリンドウ類とともに、この時期に見られる最も美しい花を咲かせる草本の部類であると思う。 日当たり良い草原や崩壊地などに生育するが、リンドウ科センブリ属の中では稀少な種であり、環境省絶滅危惧U類(VU)、兵庫県RDBではBランクとされている。 ここでは基岩が断層に沿って崩壊しており、そこに生じた粘土と風化・侵食によって生じたシルトが見られ、ムラサキセンブリはその中でも比較的湿った部分に生育している。 兵庫県南東部ではこのような崩壊地ではモウセンゴケやイヌノハナヒゲ類が出現するのが通例であるが、ムラサキセンブリが生育する場所にはナゼかこれらの種が全く見られない。 なお、周辺の露岩の基部や林床にはオオナキリスゲが生育しており、こちらの種も兵庫県下では稀であり、兵庫県RDB Cランク種とされている。
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●関西・秋の花 ムラサキセンブリ
クロホシクサ
Fig.14 クロホシクサの再発見
クロホシクサは兵庫県下では長らく標本が採られておらず、兵庫県RDBでは絶滅種となっていた。 しかし、数年前から県内にクロホシクサがあるとの情報も流れていた。 ホシクサの黒花型のものだろうと思っていたが、一方では県内にこれだけの溜池があるのだから別の自生地があってもおかしくはないとも考えていた。 今回、自生地の情報をお持ちのEさんのご案内で、クロホシクサがあるという溜池に確認しに行った。 干上がった池畔に降り立つと、背丈が低いアゼスゲ群落の被植のまばらな部分に小さな小さなホシクサの仲間が生育していた。 顔を近づけてよく見るとどの頭花も新鮮で、開花がはじまったばかりであった。 ルーペで見ると頭花は黒藍色で苞や萼、花弁の先に白色の棍棒状毛が生えており、葯は黒色だった。 持ち帰った標本を精査したところ花床にも毛が見られ、雌花は萼、花弁ともに離生し、クロホシクサの条件を満たすものであった。 よくぞ残っていてくれたものである。なお、今回の発見に伴いクロホシクサのページを大幅改訂した。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 クロホシクサ
コヒロハハナヤスリ
Fig.15 湿地に生育していたコヒロハハナヤスリ
コヒロハハナヤスリについて図鑑などではよく「湿地にはえる」という記述を眼にするのだが、私の場合、これまで見かけた場所は砂利道の脇であったり、神社の参道脇であったり、墓地だったりして、 どうも「湿地」というタームがいまひとつピンと来なかったが、今回の溜池畔の湿地で群生する光景を眼にしてようやく納得できた。 生育していたのは溜池畔の流れ込み部分に成立した湿地で、刈り込まれたショウブ群落から、これも刈り込まれたチガヤ群落へと移り変わる箇所で、同所的にタチカモメヅルが多数生育していた。 他のコヒロハハナヤスリの自生地を知らずにこの光景を見ていたなら、間違いなくコヒロハハナヤスリは湿生植物であると思い込んでしまうだろう。 以前、丹波地方の溜池畔で沈水状態で生育するハナヤスリsp.を紹介したが、持ち帰って気中育成したところ胞子嚢穂を上げてコヒロハハナヤスリであると判明した。 いよいよコヒロハハナヤスリも湿生植物として取り上げねばならないようだ。
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●湿生植物 コヒロハハナヤスリ


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