西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2010年 3月

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消え行く身近な里山
タガラシ群落
素掘り水路のタガラシ群落
溜池直下の水田の縁に掘られた素掘りの排水路中にタガラシが群生していた。 この水路には溜池の土堤からにじみだした水が常時溜まっており、他に ムツオレグサコウガイゼキショウ などが生育している。
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宅地化予定の上ヶ原山田町の里山

上ヶ原浄水場の西南の丘陵部に、過去の西宮市内の丘陵部に広がっていたであろう往時の里山の面影を残す雑木林に囲まれた谷津の棚田がある。 自宅からはクルマで10分程という近距離にあり、ほとんど宅地化されてしまった甲山東南部に唯一残された離れ小島のような里山である。 ようやく多忙な時期を脱し、今年のフィールド探索は最も身近で、最も気がかりな場所からはじまった。
この棚田では一昨年までは農地で水稲栽培や畑作が行われていたが、昨年からはほとんど耕作されなくなってしまった。 宅地建設予定地となってしまったからだ。 この場所にはこれまで何度か訪れていたが、宅地が建設されるという話しを聞いたのは昨年の秋だった。 ここに生育する植物はほとんどが北部の自然度の高い里山ではふつうに見られるものである。 しかし、手入れの行き届いた溜池の土堤や棚田の土手には沢山の ツリガネニンジン、 アキノタムラソウ、 ワレモコウアキノキリンソウ が風に揺られながら開花し、 溜池から流れ出る水路脇は ショウジョウバカマヌマトラノオキセルアザミ で飾られ、水田内の水路では市内でも少ない ミズハコベ が生育し、湿った土手には ショウジョウスゲ、 木陰では コゴメスゲ や ケタガネソウ が見られ、市街地から近い場所であるにもかかわらず種数の豊富な場所である。 身近な里山とそこに生きる生物や植物が宅地化されて消えていくのは残念なことである。 聞くところによると、今年の夏頃から宅地化の工事が始まるかもしれないという。 すでに宅地化の進行を止めることができないのであれば、ここに生育する種をしっかりと記録しておくことが私達の役目であろう。
近いうちにこの場所をリポートするページを立ち上げ、ここに生育する植物リストを制作しつつ、宅地化していく経過を記録していく予定である。 また耕作地が宅地となった以後も、周辺の自然環境にどのような変化が見られるか、可能な限りモニタリングしていきたいと考えている。

「上ヶ原山田町植物目録」(2010年4月現在・随時更新予定)

開花したタガラシ
タガラシの花
水田中に生えるタガラシは生育状態もよく、盛んに分枝して小さな黄色い花を沢山つける。 最上部の花は花期も終り、やがて花床が盛り上がって集合果は縦長にのびる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 タガラシ
ケタガネソウ
ケタガネソウ
棚田と雑木林の境界の斜面に見られ、多少半日陰となるような場所に生育している。 タガネソウに似るが、花茎や葉に軟毛が生え、タガネソウとは区別される。 甲山から上ヶ原にかけてはタガネソウは見られず、ケタガネソウが点々と生育している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ミズハコベ抽水形
水路内のミズハコベ
西宮市内では自生地が少なく稀な種である。 水中にある葉は細く(沈水葉)、水面上に出た葉は大きく幅広い(浮葉)。 ここではかなりの個体数が見られるが、この自生地もやがては無くなってしまう。
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●湿生植物 ミズハコベ
ミズハコベ陸生形
ミズハコベの陸生形
陸地に生育するミズハコベは水路内のものに比べてはるかに草体は小さくなり、節間も短くなっている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ショウジョウスゲ
ショウジョウスゲ
棚田土手下部の水がしみ出す石垣の上や隙間に点々と生育している。ショウジョウスゲは西宮市内に点々と見られるが、それほどふつうな種ではない。 叢生して大きな株となることが多く、標本を採るのに手を焼くスゲのひとつである。 他に土手部分では開花中のヒカゲスゲやアオスゲ、アリマイトスゲなどが見られた。
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●湿生植物 ショウジョウスゲ
ショウジョウスゲの雌小穂
ショウジョウスゲの雌小穂
ショウジョウスゲは区別の難しいスゲの中でも、わりあい解りやすい種である。 果胞は細長く、密に毛が生えており、鱗片は果胞よりも短く濃赤褐色となる。 また、基部の鞘が褐色〜暗褐色となり、古いものは繊維状に細かく裂けているのも特徴である。 ショウジョウスゲ(猩猩菅)の名は濃赤褐色の鱗片が目立つことからきている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コスミレ
開花しはじめたコスミレ
棚田を後にして丘陵を取り巻く水路を歩くと、石垣の護岸の上でコスミレの開花がはじまっていた。 この場所のものは側弁に毛があり、西日本に多い有毛型である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コチョウショウジョウバカマ
コチョウショウジョウバカマ(シロバナショウジョウバカマ)
昨年3月にお伝えしたものと同じ場所のもの。住宅地のそばでありながらも今年も健在だった。 周囲には花茎を上げていないロゼットや子株も見られた。
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●関西の花・春の花 コチョウショウジョウバカマ


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