このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。 |
---------------------------------------------- 30th. Nov. 2011 ------------------------------------------ 晩秋のフィールド |
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西宮市内の高所や、丹波地方、三田市などの湿地ではヤマラッキョウの開花も終わりかけで、ほとんど枯野となり、木々は紅葉しています。 この時期にまだ見れるものがあるのは県南部くらいで、足は播磨地方へと伸びてしまいます。 今年は秋なかばに急に気温が下がったりしましたが、その後なかなか寒くならず、播磨ではタツナミソウやスミレの仲間が不時開花しているのをよく見かけます。 播磨にはこの地域に独特のはげ山が広がる場所があり、粘土質の裸地〜半裸地に生育する湿生植物や、草原性植物が多く見られます。 はげ山的な景観は海岸部にも見られ、海岸部では草原性植物と海浜植物がともに見られる場所もあります。 また大中河川の河口部では塩生湿地も成立しており、観察地にはこと欠きません。 |
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Fig.1 晩秋の湿地 播磨地方の中栄養な溜池畔にある湿地で、サワギキョウとヤマラッキョウが広い範囲にわたって密に群生している。 サワギキョウは結実期で、葉は黄葉し、茎も赤く染まっている。花序には沢山の熟した刮ハをつけ、その種子生産量は膨大な数にのぼるだろう。 種子は風に吹かれて揺さぶられると、上面が裂けた刮ハから少しずつばら撒かれる。 ヤマラッキョウは少し開花の盛りを過ぎているが、これほど密に群生する場所は近辺ではあまり見ない。 溜池ではガガブタの殖芽が多数見られ、枯れた浮葉がちぎれて浮かんでいた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヤマラッキョウ ●湿生植物 サワギキョウ |
Fig.2 紅色花のナガボノワレモコウ ナガボノワレモコウの紅花品はこの地域では白花品に混じって稀に見られる。 花穂は白花品よりも短いが、花の色が暗赤色となる普通のワレモコウと違って鮮やかな紅赤色で、開花すれば容易に区別できる。 紅花品が稀に出現するということと、花穂が白花品のように長く伸びないことから、この地域の紅花の個体はナガボノワレモコウとワレモコウの種間雑種ではないかと疑いを抱いていた。 今回、結実期の紅花品の花穂を調べてみたが、種子は全て不稔であった。 この地域で白花品に混じって見られる紅花品はおそらく種間雑種だと思われる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ナガボノワレモコウ |
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Fig.3 溜池畔のクロホシクサ 昨年、生育状況を調べて発表した今のところ県下で唯一見られるクロホシクサ集団で、今年も観察を継続している。 この溜池は秋に水抜きがされるのだが、今年は秋に降雨が多かったことが影響したのか、水が抜かれて出現した裸地も表水が流れていたり、湿っている場所が多く、 それにあわせてクロホシクサ、ミミカキグサ、アゼトウガラシなどの生育領域が広がっていた。 昨年は結実可能な個体が1000株程度確認できたが、今年は自生領域の拡大により、およそ3000個体程度が確認できた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 クロホシクサ |
Fig.4 結実したオギノツメ 水抜きされて干上がった中栄養な溜池畔に結実したオギノツメが見られた。 満水時の水際にきれいに並んで生えるので、水の引いた跡の溜池では裸地と草地の境界にずらりと並んでよく目立つ。 南方系の種で播磨では自生地は多いようだが、阪神地域では稀で、西宮市内では絶滅した。 オギノツメは美しいタテハモドキの食草としてもよく知られ、水中化が比較的容易なためアクアリウムで使われる。 果実が熟す頃になると、葉は落ちてツメを思わせる褐色で光沢のある刮ハが目立つ。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 オギノツメ |
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Fig.5 晩秋のイヌホタルイ イヌホタルイは夏の終わりには大きく成長し多数の小穂を側生(偽側生)して結実するが、刈取り後の水田でもしばらくの間は花茎をあげて結実する。 このようなものは晩夏〜初秋の水田に見られるものとは違って草丈は短く、側生する小穂の数も少なく、まるで別種のように見える。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イヌホタルイ |
Fig.6 棚田土手で開花するキセルアザミ 生育条件のよい湿地や休耕田で生育するキセルアザミはすでに開花も終わり結実しているが、ここではちょうど開花全盛となっていた。 開花期に草刈りに遭ったものは急いで花茎を上げて、あまり花茎が伸びない状態で秋遅くまで開花する。 このような遅い開花は刈り込みに遭いやすい草原性植物によく見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 キセルアザミ |
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Fig.7 溜池土堤で開花したリンドウ リンドウの開花期は長く、同時期に開花しはじめるヤマラッキョウの開花期が終わり、12月に入っても開花しているものを見かける。 草刈りが頻繁に行われる場所ではその傾向がいちじるしく、同様な傾向のあるツリガネニンジンとともに開花している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 リンドウ |
Fig.8 晩秋のクチナシグサ 開花期に見られるクチナシグサとは全く外見が異なり、葉は細く、草体は全体に繊細で、花のないセンブリやカナビキソウのように見える。 草体は夏場から赤味を帯びていることが多く、晩秋に草をかき分けて根際を見ると、画像右下のような越冬芽の小さな塊が形成されている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 クチナシグサ |
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Fig.9 石垣で結実したセンボンヤリ 西宮市内の山中の日当たりよい道路脇の石垣でセンボンヤリの閉鎖花が沢山結実していた。 春先に開花する正常花では結実率が大変悪いが、閉鎖花では結実率は90%を超え、大変高い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 センボンヤリ |
Fig.10 ツメレンゲ ツメレンゲは河川や渓流に面した岩壁に生育していることが多い。岩肌は乾いているように見えるが、空中湿度はそれなりにあるのだろう。 すでに開花全盛期は過ぎて、大型の個体は結実しかかっていたが、小型の個体はまだ開花中のものが見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.11 ハゲ山の植物 播磨地方の溜池に面した斜面が、半裸地が卓越した表土の少ない流紋岩質のハゲ山になっており、そこに独特の植生が見られた。 多くの場所では矮小化したネザサとトダシバが優占するが、オガルカヤ、ウンヌケ、ノグサ、イガクサ、ツルボ、ヤマラッキョウ、アリノトウグサ、イシモチソウ、 ヒキヨモギ、オオヤマジソ、リュウノウギク、マルバハギ、ガンピ、サワグルミなどが生育していた。 帰宅後に文献を調べると、この場所では多くの稀少種が記録されていることがわかった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.12 ウンヌケ 東海地方と兵庫県に隔離分布する。兵庫県では播磨地方の限られた地域にのみ分布しており、兵庫県版RDB Bランクとされている。 ススキに似ているが、葉は短く、花茎は細く節でわずかに屈曲し、花穂はあまり展開せず硬くもろい。 同様な環境には酷似するウンヌケモドキがあり、こちらも稀少種で、葉は有毛で、花穂はウンヌケよりも折れにくい。 両種の区別には葉鞘の毛の有無がキーとされるが、ウンヌケの葉鞘の毛は晩秋の頃には脱落しているものが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.13 結実期のオオヤマジソ 緩い斜面の表土がわずかに溜まった場所にヒキヨモギ、ツルボ、ヤマラッキョウとともに生育していた。 オオヤマジソは母種のヤマジソよりも苞葉が大きく丸みを帯びることで区別され、貧栄養地の路傍などに生育し、現在生育が確認されているのは兵庫、長崎、佐賀の3県のみである。 ハゲ山などの貧栄養地が点在する兵庫県では比較的よく見られ、ここでも多くの個体が生育していた。兵庫県ではRDB Cランクとなっている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.14 イガクサ イガクサも貧栄養地によく見られ、西宮市内では花崗岩が風化した日当たりよい場所の、降雨時のみに水流のある枯れた細流の周囲などに見られる。 湿地周辺ではイヌノハナヒゲの仲間と見られることが多いが、ここではノグサ、イシモチソウなどとともに生育し、 播磨地方のハゲ山周辺ではこのような組み合わせで出現することが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イガクサ |
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Fig.15 不時開花するイシモチソウ 播磨地方は気候が温暖なためか、秋期に塊茎から発芽しているものを見かけることも多い。 画像のものは茎頂付近に数個のつぼみをつけ、うち1つはもうすぐ開花しそうである。 訪花昆虫も少ないこの時期、虫を捕えているのは1枚の葉のみで、うまく受粉して結実できるのだろうか。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イシモチソウ |
Fig.16 土崖のコモウセンゴケ群落 コモウセンゴケはモウセンゴケが生育するような表層に水が流れていたり、したたっている場所には見られず、粘土質の斜面に生育していることが多い。 細かい粘土の粒の間に生じる毛管現象によって水分を得ているが、ハゲ山の薄い表土に生育するイガクサやノグサ、イシモチソウなども同じように水分を得ているのだろう。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コモウセンゴケ |
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Fig.17 海崖に生育するハマエノコロ ハマエノコロは初夏〜晩秋まで長い期間にわたって花穂を上げている。周囲にはハマナデシコも生育していたが、すでに開花期は終わり、結実が見られた。 このような場所では海浜植物に混じってツルボやユウスゲなどの草原性植物も見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.18 カラスノゴマ 海崖にカラスノゴマが数多く生育していた。ハゲ山にも多く、林道のアスファルトの隙間に生育しているのもよく見かける。 西宮市内にも生育場所があるが、数年間は同じ場所に見られるが、いや地を起こして同じ場所に長期間見られないという。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.19 海崖に咲くノジギク 播磨地方の瀬戸内沿岸では海崖や草地でノジギクが見られる場所が点在する。ノジギクは兵庫県の県花となっているが、純粋なノジギクが見られる場所はほとんどないだろうという。 画像のものは海崖上部に続くハゲ山に生育しているもので、典型的な個体に近い。 付近には丈の低いトベラ、ネズ、アカマツ、オガルカヤ、トダシバ、ヤマラッキョウ、ノガリヤスが見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.20 交雑と思われる集団 こちらはシマカンギクとの交雑ではないかと考えられる集団。花の色は白色〜黄色と変化の幅があり、黄色のものは花径が小さく、頭花が茎頂に集まる傾向が見られる。 総苞片は鈍頭から円頭で、丸みを帯びたものが多く、シマカンギクの特徴ははっきりと現れていなかった。 シマカンギクは法面緑化に伴い各地に広がりつつあり、ノジギクの仲間との交雑による遺伝子汚染が懸念されている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.21 海浜湿地の植物 播磨地方の河川河口部には開発の手がおよばない、自然度の高い塩性湿地が広がる場所が残っている場所がある。 ここでは画像に見えるハマサジ、フクド、ホソバハマアカザ、ウラギクのほか、イソヤマテンツキ、シオクグ、ハマゼリ、ハママツナなど数多くの塩性湿地に生育する植物が見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.22 ハマサジ 開発により良好な塩性湿地は各地で減少傾向にあり、環境省の準絶滅危惧(NT)、兵庫県版RDB Cランクとされており、見られる場所は限られる。 2年草で、1年目はサジ状の根生葉を地表に広げ、2年目に花茎をあげて、分枝した枝に多数の花をつける。 完全花と不完全花1個ずつからなる小穂を形成し、それが花序の枝に並ぶという、まるでイネ科を思わせる花のつくりである。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.23 フクド 先のハマサジも同様だが、フクドも満潮時には海水に浸かってしまうような河口部の湿地に群生をつくる。 ここでは広範囲にわたって群生しており、ハマサジよりも優先度が高い。 ヨモギの仲間で、カワラヨモギよりも裂片の幅が広く厚い根生葉が目立つが、開花期にはカワラヨモギと同じく根生葉は枯れてしまう。 訪れたのは果実期であり、根茎から生じた根生葉をつけた小さな株が周囲に目立っていた。翌年はこれらの株がこんもりと成長し、花茎を上げる。 兵庫県ではフクドが見られる場所は少なく、RDB Bランクとされている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.24 ホソバハマアカザ ハマサジやフクドの近くではホソバハマアカザが紅葉していた。 成長期や開花期には地味で全く目立たない種だが、果実期には紅葉するものが多く、この時期にはよく目立つ。 花序には雄花と雌花が入り混じって咲き、花後、雌花の苞葉が広い菱状に発達し、花序に連なる。 ホソバハマアカザはハマサジやフクドよりもまだよく見かけるほうだが、それでも減少傾向にあり、兵庫県版RDBではCランクとされている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) | ||
Fig.25 イソヤマテンツキ 塩性湿地や海岸の岩場に生育し、兵庫県版RDBではCランク。ここでの開花時期は早く、6月初旬から開花しているものが見られる。 おそらく7月には痩果も熟しているだろう。 画像のものは比較的大きな株で、熟した小穂が数多く見られた。この場所のものは7〜11月の長期にわたって結実が見られることになる。 生育箇所はやや踏みつけの多い場所で、周囲にはハママツナ、小型のホソバハマアカザ、ハマサジがまばらに生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イソヤマテンツキ |
Fig.26 紅葉したハママツナ アカザの仲間は秋になると紅葉するものが多く、ハママツナも秋には美しく紅葉する。 少し時期が遅かったため、茎下方の葉は茶色くしなびて枯れてしまっているが、果実のついた茎上部の葉は紅色の強い赤色となり美しい。 葉腋についた果実は熟しており、爪で剥くと扁平で光沢のある褐色の種子が出てきた。 ハママツナも兵庫県版RDBではCランクとなっており、塩性湿地に生育するものは自生地の減少から稀少種が多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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------- 写真帳 2011・11・6 - 11・29 --------------------------------------------------------------------------------------- |
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Fig.27 シロバナヤマラッキョウ ヤマラッキョウの群生地に稀に生じる白花品。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヤマラッキョウ |
Fig.28 刈取り後に開花したシソクサ 刈り取られた主茎の短い側枝に沢山の花をつけていた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 シソクサ |
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Fig.29 渓流岩壁のナメラダイモンジソウ 岩壁の手の届かない場所に群生している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ナメラダイモンジソウ |
Fig.30 イワヒバ 河川に面した岩壁にツメレンゲとともに生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |