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---------------------------------------------- 30th. Oct. 2011 ------------------------------------------ 秋を迎えた里山 |
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このところ陽はすっかり短くなり、夕刻の5時になると最早暗くなって観察や調査もお開きとなり、1日に廻れる場所の数も少なくなりました。
太陽も午後からは斜光となり、陰影のコントラストがきつくなり、遠景の画像はかなり苦しくなってきました。
里山を歩けば雑木林の林縁ではガマズミの仲間、ノイバラ、カマツカ、タンナサワフタギ、イヌツゲ、アケビの仲間、ツヅラフジ、サルトリイバラなどの果実が目立ち、足元ではセンブリが開花しています。
マツムシやクツワムシの鳴く草地ではヤマハッカ、アキノキリンソウ、ツリガネニンジンが目立ち、衣服にはヌスビトハギ、アレチヌスビトハギ、チカラシバ、イノコヅチの果実がくっ付いてきます。
草刈りの行き届いた良好な草地環境が見られる溜池土堤や土手ではこの他に、ノダケ、フシグロ、咲残りのタヌキマメ、返り咲きしたタツナミソウなどが見られます。
湿地ではスイラン、ホソバリンドウ、ヤマラッキョウ、サワヒヨドリ、咲残りのサワギキョウがお花畑をつくり、衣類にはイヌノハナヒゲの仲間の果実がまとわりついてきます。
平野部の溜池ではタデ科の仲間が目立ち、溜池畔に広がるアシ原をかき分けると、オオオナモミ、アメリカセンダングサ、コセンダングサの果実が衣服に付いてきて、その後処理にも時間を食うようになりました。
溜池では水面に浮かんでいたヒシやガガブタの浮葉が枯れ始めています。 |
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Fig.1 溜池土堤のサワヒヨドリ 溜池土堤の下部に強く紅色を帯びたサワヒヨドリが群生していた。サワヒヨドリには紅色の強いもののほか、赤い色素を欠いた白色の花を咲かせるものもある。 葉にも変異が多く、画像のように葉の細いものから、3深裂するものまで様々である。痩果は冠毛を持ち、発芽率も高く、改修された溜池土堤でも比較的早くに定着して群生する傾向がある。 ここでは土堤上部ではツリガネニンジンが多く、その下方ではワレモコウ、続いてサワヒヨドリ、ヤマラッキョウが現れ、排水路脇ではキセルアザミ、シロイヌノヒゲ、スイランが生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 サワヒヨドリ |
Fig.2 棚田土手で満開のヤマハッカ ヤマハッカはよく似たアキノタムラソウと同様な生育環境に見られるが、アキノタムラソウの最盛期が過ぎてから開花しはじめ、ススキ、ネザサやチガヤの優占する自然度の高い草地に見られ、 古くに造営された溜池の土堤や里山の棚田の土手では大きな群落をつくっていることがある。ここもそのような棚田の土手で、同所的にカワラナデシコ、キツネノマゴ、クサフジ、ノイバラ、 スイカズラ、ヘクソカズラ、ノアズキ、ツリガネニンジンなどが生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ヤマハッカ |
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Fig.3 棚田土手のイヌセンブリ イヌセンブリは湿原の周縁付近の半裸地や草地に生育する種で、もともと自生地が限られるうえ、生育環境の開発や改変により全国的に減少傾向にあり、環境省絶滅危惧U類(VU)とされ、 比較的自生地の多い兵庫県下でもRDB Cランクとされている。ふつう溜池畔や湿地で見られるが、ここでは谷津の棚田の土手に50個体程度が生育し、刈り込まれた低い草体に沢山の花をつけていた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イヌセンブリ |
Fig.4 道端で開花したセンブリ センブリはかつては西宮市内でも道端の乾いた草地によく見られたが、そのような環境が少なくなったためか、近年では山野を分け入らないと見られなくなってしまった。 画像のものは丹波地方の農道脇のシバ地状の草地で開花していたもので、この地域ではまだあちこちで自生しているのが見られる。 先のイヌセンブリに似るが、イヌセンブリの葉は基部近くでは長楕円状や倒卵形で葉幅が広く、花冠の蜜腺の周囲には縮れた長い毛があって蜜腺溝が見えず、葯は橙〜黄色を帯びる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 センブリ |
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Fig.5 オケラ オケラは「山で旨いのはオケラとトトキ」と言われていたほどポピュラーなものであったが、最近では急激に姿を消しつつあり、兵庫県でも昨年からRDB Cランクに位置づけられるようになった。 生育環境は雑木林の林縁部の草原であり、このような場所はかつては棚田の奥や手入れされた雑木林の林縁に見られたが、雑木林の管理放棄、棚田の廃田によってそういったオケラに適した環境が遷移などによって消滅し、 それとともにオケラも見られなくなってしまった。 画像のものはとある公共施設の敷地内に生育するもので、疎林とともに草地が適切に管理され、これまで見た中では最も個体数の多い場所であった。 ここではオケラのほか、付近では稀なアワボスゲ、カワラボウフウ、イヌヨモギ、ノグサなどが生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 オケラ |
Fig.6 草地土手で開花したアキノキリンソウ 棚田上部の草刈りの行き届いた土手でアキノキリンソウが開花していた。アキノキリンソウは草地をはじめとして、林縁、疎林内、崖地などいたるところで見られ、この時期の里山を象徴するような花である。 同じく黄色い花でこの時期によく見られるものにヤクシソウがあり、崩壊地や崖、岩礫地などでアキノキリンソウよりも多くの花をつけて目立っている。 アキノキリンソウに似て小型で葉が細く、渓流の岩上に生育するものにアオヤギバナがあり、稀に見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 アキノキリンソウ |
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Fig.7 雑木林の林縁で開花したコウヤボウキ コウヤボウキは当地では雑木林の明るい林下や林縁などにごく普通に見られる草本状の落葉低木である。 日陰となる林床にも生えているが、生育はあまり良くなく花数も少ないが、手入れされた雑木林に生育するものは画像のように多くの花をつけて見事である。 よく似たものにナガバノコウヤボウキがあり、同様な環境に生育するがやや稀で、花は2年目の枝の輪生状についた葉の中央につき、コウヤボウキよりも開花期が少し早い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 コウヤボウキ |
Fig.8 溜池土堤のツクシハギ 丹波地方では結実期に入っていたツクシハギであるが、西播磨の溜池土堤ではまだ満開のものが見られた。 ヤマハギと非常によく似ているが、ツクシハギは萼裂片がとがらずに鈍頭〜円頭となることで区別される。 他に似た花をつけるものにマルバハギがあるが、マルバハギの花序は短く、葉を大きく超えて出ない点で区別できる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.9 溜池土堤下部で開花したホソバリンドウ ホソバリンドウは湿地に適応したリンドウの品種で、兵庫県下では南部の湿地や溜池に分布し、丹波地方に入ると非常に稀なものとなる。 リンドウよりも繊細で、葉幅はごく狭く、茎も細いが、場所によっては葉幅がリンドウと中間的なものも出現し、どちらにするか迷うこともあるが、迷った時は母種のリンドウとすることにしている。 画像は三田市内の丘陵部に小さな溜池がかたまってある場所で、溜池土堤やその間に生じた小湿地などに300個体ほどが群生していた。 ここではサワギキョウ、キセルアザミ、スイラン、ヤマラッキョウ、センブリ、シロイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、イトイヌノヒゲ、コマツカサススキなど湿地の秋を飾る草本が高密度で生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ホソバリンドウ |
Fig.10 溜池土堤下部で開花しはじめたヤマラッキョウ fig.9のホソバリンドウが開花した三田市の溜池土堤ではヤマラッキョウはまだほとんどツボミの状態であったが、同じ日に探訪した篠山市では秋の訪れが一足早く、ヤマラッキョウも開花しはじめていた。 小さな紅色の花を球状に集めた花序は、枯れゆく秋の山野の可憐に映える。 ヤマラッキョウは貧栄養な湿地を好む傾向があり、丹波地方では流紋岩質の基岩の広がる貧栄養な土壌の広がる地域に分布が限られ、丹波層群や篠山層群からなる肥沃な土壌が提供される地域には生育が見られない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヤマラッキョウ |
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Fig.11 用水路内で結実したホソバヘラオモダカ ホソバヘラオモダカは分布が局限される種であり、自生地ではふつう多くの個体が見られるが、その水系の別の支流では全く見られず、同じような環境ではヘラオモダカばかりが生育しているといった状況が見られる。 画像の集団もとある水系の1支流の流域のみに偏在しているもので、ここではホソバヘラオモダカは見られるもののヘラオモダカは全く見られない。 今年、兵庫・水辺ネットワークの方に内陸の溜池跡の自生地に案内して頂いたが、そこでは湿地化したその場所にだけ、隔離的に多くの個体が生育しているのを見ることができた。 ホソバヘラオモダカのこの偏在はどういたった要因によるものか現時点では想像すらつかず、現在見られる集団の分布には多くのミッシングリンクと謎をはらんでいるように見える。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 ホソバヘラオモダカ |
Fig.12 溜池畔で開花したスイラン 溜池畔の湿原でチゴザサ、シロイヌノヒゲ、イヌノハナヒゲとともに生育している。 スイランは「水蘭」であり、葉が線形で細長くシュンランと似ていることにより命名されたものだが、「水」という語の潤い、「蘭」という言葉の華麗さから、繊細で優雅な印象を受ける種である。 花をつけないシュートは細長い葉を束生して、葉を垂直に立ち上げる。有花茎は長く直立し、茎頂や分枝した先に大きな花を開花する。 長く直立した花茎、大きな花は湿原の中でよく目立つ。スイランの最盛期となると、ホソバリンドウが開花しはじめ、さらにヤマラッキョウが開花すると、間もなく秋の湿地の花も終わりとなる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 スイラン |
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Fig.13 土手で紅葉したアイナエ 篠山市の里山の水田脇の粘土質の土手に紅葉したアイナエが開花していた。篠山市ではこれまで記録がなかったが、小さくて目立たないため採集者の眼に止まらなかったのだろう。 この時期には葉が紅葉するので、夏場よりははるかに発見しやすい。 土手にはアイナエ発見の指標種となるイトハナビテンツキ、アリノトウグサ、サワオトギリ、センブリ、リンドウ、シバなどが生育し、乾いた場所にはヒメハギ、トダシバなどが生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 アイナエ |
Fig.14 里山の土手に生育するミズスギとトウカイコモウセンゴケ 播磨地方の圃場整備された水田の山際土手に生育しているもの。 圃場整備された水田や畦には見るべきものがなかったが、山際の土手には流紋岩質凝灰岩がむき出しとなった場所や古い植生が残っている部分もある。 土手の上には導水路があり、そこから漏れ出た用水が所々でしみだしており、トウカイコモウセンゴケが密生していた。 日当たりよい南側斜面では丈の低い矮小化したミズスギが群生し、周縁部では画像のようにトウカイコモウセンゴケと混生している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズスギ ●湿生植物 トウカイコモウセンゴケ |
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Fig.15 小形のハナアブが訪花したウメバチソウ 県南部の山間にある貧栄養な湿地では各地でウメバチソウが開花し始めた。 花冠の中には分岐して先に腺体を持った仮雄蕊が5つあり、訪花昆虫を招き寄せる。 開花し始めたばかりの花にはちょうどハナアブの仲間が訪花していた。まだ雄蕊は花柱に密着したままで開いていない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ウメバチソウ |
Fig.16 ケシンジュガヤ 兵庫県下ではケシンジュガヤの品種であるマネキシンジュガヤは多いが、ケシンジュガヤは比較的分布が局限される。 これまで湿地や溜池畔で見たものはどれもマネキシンジュガヤばかりで、兵庫・水辺ネットのOさん、Sさんのご案内でようやくケシンジュガヤを見ることができた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ケシンジュガヤ |
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Fig.17 オグラコウホネとフサモ 管理放棄された山中の溜池に生育しているもの。 この池はもともと土砂の流入によって狭くなっていたが、今年の数度にわたる大雨でさらに土砂が大量に流入し、オグラコウホネの生育領域が埋もれつつある。 池にはオグラコウホネ(RDB Bランク)、フサモ(RDB Bランク)、イトモ(RDB Bランク)、ミズニラ(RDB Cランク)、イヌタヌキモなどが生育している。 フサモの県内での自生地は少なく、同じBランクでもAランクに近いBランクであり、イトモは県東南部では多産し、Cランクに近いBランクである。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 オグラコウホネ ●沈水植物 フサモ |
Fig.18 気中形のフサモとイトモ Fig.17と同じ場所のもの。 山からの腐植土壌が堆積した浅水域の泥濘地の水が引きフサモが気中形となっていた。 同属のホザキノフサモやオグラノフサモも同様な環境では気中形となり、この状態での同定はほぼ不可能である。 イトモはすでに結実した花序を持った茎は枯れたあとで、その後に形成された新しいシュートが密生している。 ここでは両種とも、11月半ば頃から殖芽を形成しはじめる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 イトモ |
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Fig.19 群生するナガバノウナギツカミ 過去に記録のある播磨地方の溜池に確認に出掛けた。幸いなことにナガバノウナギツカミは健在で、池畔のアシ原の開けた場所におよそ100uにわたって群生しているのを確認することができた。 本種は原野的環境の水辺に生育し、県内では自生地が局限され、兵庫県版RDBではBランクに位置付けられている。 数年前までは琵琶湖の湖西の自生地数ヵ所で観察していたが、それらの場所では全て見られなくなってしまった。 草体や群生する様子はヤノネグサやアキノウナギツカミ、ホソバノウナギツカミなどと大差はないが、これほどまでに減少してしまうのはどういう理由によるものだろうか。 今回再確認できたこの集団も、毎年の動向を記録しておく必要を感じる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ナガバノウナギツカミ |
Fig.20 紅葉したサイコクヌカボ 播磨地方の棚田上部の埋もれつつある小さな溜池に、サイコクヌカボが密に群生して草体を紅葉させていた。 サイコクヌカボはヤナギヌカボ、ヌカボタデなど酷似する種が多く、ヤナギヌカボとは葉裏の腺点がないことが重要な区別点となっている。 しかし、最近になって兵庫県下の播磨地方に生育するサイコクヌカボの集団に葉裏に微小な腺点のあるものが見つかり始めており、ここの集団のもの全ての個体の葉裏に腺点が見られる。 このことから、これまで同定のキーポイントとされていた葉裏の腺点の有無という特徴は使えないということになる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 サイコクヌカボ |
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Fig.21 ニオイタデ ニオイタデは原野環境的な水辺に生育するタデ科の1年生草本。 兵庫県下では南部の溜池畔などで比較的稀に見られ、兵庫県版RDB Cランクとされているが、同じ環境に生育するCランクのサデクサやゴキヅルよりもはるかに稀である。 ふつう群生し、自生地での個体数は多い。花は鮮やかな紅色で、節は肥厚し、茎には開出する長毛と短い腺毛がある。 リンゴに似た香気があるといわれるが、そのような香りは感じなかった。ほとんど全ての花序は結実しており、香気を出す時期は終わっていたのかもしれない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ニオイタデ |
Fig.22 ヒシの間を浮遊するウキゴケsp. ウキゴケの仲間は湧水河川や水田の素掘り水路で見られるものだと思っていたが、播磨地方の山間の溜池でヒシの間を隙間なく埋めるほど群生している光景に出合った。 ヒシが生育するぐらいであるから、水質は少なくとも中栄養であるはずだが、やはり湧水でも湧き出してウキゴケの生育が可能となっているのかもしれない。 画像のように水面に浮かんだ群体はあまり立体的な構造とならず、平面的に分枝して広がっているものが目立った。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生〜浮遊植物 ウキゴケ複合種 |
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------- 写真帳 2011・10・13 - 10・29 ----------------------------------------------------------------------------------------- |
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Fig.23 溜池畔のエゾハリイとヌメリグサ群落 兵庫県中部〜南部の貧栄養〜中栄養な溜池畔によく見られる光景。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 エゾハリイ ●湿生植物 ヌメリグサ |
Fig.24 干上がった溜池のツクシクロイヌノヒゲとサワトウガラシ 両種ともに満水時には水中に生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ツクシクロイヌノヒゲ ●湿生植物 サワトウガラシ |
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Fig.25 休耕田で開花したサワギキョウ 最近刈り込みに遭い、低い草体のまま急いで開花したもの。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 サワギキョウ |
Fig.26 果実期のイシミカワ群落 溜池土堤のネザサを覆うように広がっていた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イシミカワ |
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Fig.27 タウコギ 刈取り後の水田で草体が紅葉していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 タウコギ |
Fig.28 刈取り後に姿を現したホシクサ群落 神戸市で新たに発見された集団。高密度の群落である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ホシクサ |
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Fig.29 ウメモドキ 秋になると鮮やかな赤い実を沢山つけて湿地の周囲を彩る。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ウメモドキ |
Fig.30 イヌツゲ 湿地の周囲に多いが、ウメモドキのように目立たない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.31 イヌザンショウ 里山の林縁ではあちこちでイヌザンショウが結実していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.32 タンナサワフタギの果実 果実は黒い。葉がないのはシロシタホタルガに食い荒らされたため。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.33 結実したカマツカ 果実は食べれるが、食べるよりもむしろ果実酒のほうが向く。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.34 ミツバアケビの果実 中の果肉は甘い。果皮は炒めるなどして食用となる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.35 フユノハナワラビ 道端の草地ではフユノハナワラビが胞子葉を上げ始めた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花・シダ フユノハナワラビ |
Fig.36 ツチグリ この時期の雑木林の林縁部ではお馴染みの菌類。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
---------------------------------------------- 5th. Oct. 2011 ------------------------------------------ 琵琶湖周辺の湧水河川ほか |
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滋賀県で見つけたミズキカシグサの様子を見がてら、琵琶湖に出掛けてきました。
今年は琵琶湖に3度出掛けましたが、降水量が多いため集水域からの栄養塩類の流入が多く、水はあまり澄んでおらず、湖底の水草の観察にはあまり適した年ではなかったようです。
流入する河川の河口部も水深が深く、ほとんど流れが見られず、水草の表面に軟泥が積もっていて、水草類の撮影にも適した年ではありませんでした。
今回もシュノーケリングで琵琶湖に潜って水草を観察しましたが、琵琶湖特有の北東の強風による波が強く、水底の泥やベントスを巻き上げ、身体も水草も強く波に翻弄されるため、
よい水中画像が全く得られませんでした。
しかし、強風が吹いていても小さな河川での観察は可能です。
琵琶湖周辺では湧水起源の河川が多く水の透明度も高いため、至る所で多くの水生植物を観察することができます。
毎回、兵庫から短時間で行ける湖西の河川を廻る機会が多いですが、今回は湖東の河川も廻りました。
その他、兵庫県内での調査時に観察した植物などを取り上げました。 |
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Fig.1 田園地帯の湧水河川 湖東の圃場整備された水田地帯を流れる水路で、水温が低く明らかに湧水起源とみられ、水底はびっしりと水草に覆われていた。 底面もコンクリートのブロックが敷設されているが、その隙間には沈水形のナガエミクリが根茎を伸ばして生育しており、画像でもその様子がよくわかる。 その間には気中〜沈水形のキクモが優占し、その中にコカナダモ、ミズハコベ、ヤナギタデがパッチ状に点在し、タイヌビエ、エビモ、ヤナギモがわずかに混じる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 ナガエミクリ |
Fig.2 湧水河川のミズタガラシ こちらは湖西にある排水路で湧水が多く流入し非常に透明度の高い緩やかな流水域となっている。 河川内にはミクリが群生し、その周辺に赤紫色を帯びたミズタガラシが群生し、美しい光景が展開していた。 ミズタガラシは葉を多数つけた走出枝を緩やかな流れになびかせている。 河川の透明度は高いが、オオフサモやオランダガラシといった外来種も侵入していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズタガラシ |
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Fig.3 湧水河川に密生するキクモ Fig.1の水路内に密生しているもので、気中〜沈水形のものが混じる。 透明度が高く流れが比較的早いうえ、湧水起源であるため水中に溶存している気体も多いと考えられ、気中〜沈水の形をとっているのだろう。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生〜沈水植物 キクモ |
Fig.4 水中のキクモ Fig.3のキクモ群落の水中の様子。沈水形のものはふつう気中形のものよりも節間が長く、葉も大きいが、流水域であるためか、節間はつまり、沈水葉もあまり大きくはない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.5 湧水河川のヤナギタデ ヤナギタデは時に流水域で沈水形のものを見ることがあるが、ここのものは強く赤味を帯びるものが数株見られた。 同じ水路内には赤味を帯びないもののほうが多く見られ、水中に花茎を上げているものも見られた。花茎を調べてみたが、まだ開花初期で果実を形成しているものはなかった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヤナギタデ |
Fig.6 湧水河川のホソバミズゼニゴケ Fig.1の水路内ではごく一部にコンクリートの底面が露出している場所があり、そのような場所ではミズハコベとともにホソバミズゼニゴケが付着していた。 このような湧水河川ではウキゴケ(複合種)が出現することが多いが、ここではホソバミズゼニゴケのみが見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.7 住宅街の湧水河川 幹線道路へ続く商店や住宅の連なる道路沿いには、かつては洗い場として利用されたであろう水路が平行して流れていることが多い。 このような水路は手入れが行き届いて藻刈りや底浚いが行われて、水草がまばらにしかはえていないことも多いが、手入れがあまりなされない場所では水草がよく繁茂している。 画像の場所も交通量の多い道路脇を流れているもので、おそらく年に1、2回は手入れがなされていると思われ、水底全域を水草が覆うまでにはいたっていない。 この水路内ではナガエミクリ、ホザキノフサモ、センニンモ、ヤナギモ、エビモが生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.8 流水中のホザキノフサモとエビモ Fig.7の水路に生育するホザキノフサモとエビモの様子である。 ホザキノフサモは茎を伸長させる速度が速く、琵琶湖でも水底から2m以上にも伸びて水面に達するものが多くみられるが、流水中でも長く伸びている。 エビモは止水域に生育するものは夏期に殖芽を形成して草体は枯れて休眠することが知られているが、湧水のある流水域では1年中枯れることなく美しい草体が見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 ホザキノフサモ ●沈水植物 エビモ |
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Fig.9 湧水河川のシャジクモ シャジクモは水田や休耕田、溜池などでよく見かける淡水藻類であるが、湧水起源の河川で生育しているのは初めて見た。 流水域では節間も輪生枝も短く、草体はコンパクトであるが、よく分枝してこんもりと茂り、路上から見ても存在感があった。 シャジクモは西宮市内の棚田にある、山から清水を引いた消化用水枡に群生しているのを見たことがあったが、淡水藻類は1年生水田雑草と同様に年による消長が激しく、今年は全く見られなかった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.10 琵琶湖のササバモ 見づらい画像だが、今回の琵琶湖本体で撮影した水中画像の中ではまだよく撮れたほうだった。 湖岸から水面に見える島状の水草はヒシやトチカガミ、azollaの仲間などの浮葉・浮遊植物をのぞいて、ほとんどがこのササバモかホザキノフサモである。 ササバモは水面に達すると浮葉を出すことが多いが、琵琶湖では波風が強いため、浮葉を形成しているものは見ない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉〜沈水植物 ササバモ |
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Fig.11 コバノカモメヅル 湖西の水田の畦にコバノカモメヅルが生育していた。 兵庫県下では但馬地方の一部にのみ見られる希少種だが、琵琶湖周辺では自生地が点在しており、オオバルバノホロシやホソバイヌタデなどと同様に原野環境に生育する湿生植物とみられている。 草原性であるコカモメヅルによく似ているが、花冠の裂片はより細長く捩れているのが特徴である。 ここでは畦からつる状の茎を伸ばして、刈取りの終わった水田内に進入しつつあった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コバノカモメヅル |
Fig.12 刈取り後の水田に密生するミズワラビ 畦にコバノカモメヅルが生育している刈取り後の水田内ではミズワラビが密生していた。 付近には湧水起源の水路があちこちに存在し、地下水位が高く、どの水田にも多くのミズワラビが生育し、湛水状態の休耕田ではミズタガラシ、キクモ、アゼトウガラシ、 クログワイ、チョウジタデなどが密生している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズワラビ |
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Fig.13 結実したミズキカシグサ 以前のフィールドメモでも取り上げた、山際の水田減反部に生育しているミズキカシグサの様子を見にいった。 前回見つけた時は全く開花個体は見られず成長途上であったものが、今回は全て結実しており、開花個体はすでになかった。 付近一帯の水田ではコガタルリハムシが大発生しており、キカシグサやヒメミソハギは食害に遭ってボロボロとなっているものが多く、ミズキカシグサも同様に食害されており、 結実途上で立ち枯れているものも見られた。 画像のものもコガタルリハムシの成虫2頭が後食している最中であったが、振り落して撮影した。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズキカシグサ |
Fig.14 ミズネコノオ ミズキカシグサが生育する隣の水田の減反部分にはミズネコノオも生育しており、このあたり一帯の自然度の高さが伺える。 兵庫県下では現在2か所しか自生地が確認できておらず、そのうち1か所は溜池であり、水の増減にあわせた特異な生態が見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズネコノオ |
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Fig.15 刈取り後の水田雑草群落 毎年観察している湖岸の村落内にある水田の刈取り後の画像である。 キカシグサ、マルバノサワトウガラシ、シソクサ、ホシクサなどが見えるがどれも草丈が低い。 今年は低温期が例年よりも長く続いたため、どの草本も生育が遅れて小さな草体のまま開花結実したと見られる。 マルバノサワトウガラシは訪れるたびに開花していないかと期待するが、花柄を持った正常花とされるつぼみや果実を見かけても、開花しているものは見ない。 最近では花柄を持つ花でも閉鎖花であるものが多いのではないかと懐疑している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 マルバノサワトウガラシ |
Fig.16 エダウチスズメノトウガラシ 近縁種のアゼトウガラシは発芽も成長速度も速く、例年通りの生育が見られるが、エダウチスズメノトウガラシは山間棚田に生育することもあって、草丈の伸びないまま小さな草体で開花していた。 画像のものは先のミズキカシグサと同じ水田内に生育しているものだが、ミズキカシグサの生育する減反部には見られず、日当たり悪いと思われるイネの根元ばかりに見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 エダウチスズメノトウガラシ |
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Fig.17 ヒツジグサの水中の様子 丹波地方の山間にある、流入部を持たない澄んだ溜池に生育しているもの。おそらく湧水によって涵養されている溜池だと考えられる。 水面からの画像と、水中からの画像では捉える角度が異なるため、水面に多くの浮葉や花を浮かべるものは2つの画像を整合させるのが難しい。 画像でも浮葉の葉柄だけが水中に見えるものがあり、整合性を欠いていて、今後の課題である。 周囲の水草はホソバミズヒキモで、浮葉はほぼ消失しかかっており、多数の殖芽を形成しつつある。線形の根生する草体はハタベカンガレイの沈水形。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ヒツジグサ |
Fig.18 ハタベカンガレイの水中の様子 Fig.17と同じ溜池に生育するハタベカンガレイの水中と気中の様子である。 県下で見られるものの中ではやや中形の個体で、周囲の水中には実生または芽生による小さな沈水形の株が多数生育している。 ハタベカンガレイは兵庫県下ではいまだ流水中で生育しているものを見たことはなく、確認した自生地のすべてが溜池であり、 秋〜冬期にあまり減水しない貧栄養〜腐食栄養質の水深40〜150cmの場所に多く分布し、浅い埋もれつつあるような溜池では枯れた大株が見られ、減衰する傾向が見られる。 この溜池は軟泥が深く堆積して水深は30〜40cmで、水中には沢山の沈水形の小形個体や気中形の中形個体が生育するが、大株は少ない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 ハタベカンガレイ |
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Fig.19 溜池浅瀬のフトヒルムシロ群落 Fig.17,18の溜池の浅水域の一画ではフトヒルムシロが密に生育していた。 フトヒルムシロは開花・結実後、浮葉はいったん枯れてしまうが、ここのものは結実が早かったのか、すでに古い花茎も消失し、新たな浮葉を上げて美しい。 浮葉は冬期に水面が凍結すると再び枯れてしまうが、水中の沈水葉は常緑越冬する。 フトヒルムシロは山間の溜池に多く見られ、おそらく湧水の有無が生育の条件のひとつとなっていると考えられる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 フトヒルムシロ |
Fig.20 増水した溜池のヒナザサ群落 ヒナザサは例年は干上がった溜池畔で開花・結実するのを見るが、今年は降雨量が多かったため水抜きの行われない多くの溜池では、ヒナザサやイヌノヒゲ類は水中で開花している。 イヌノヒゲ類は結実するかどうか不明だが、ヒナザサは花序が葉鞘内にあるうちから自家受粉しているようで、水中にあっても結実が見られる。 ヒナザサは貧栄養な溜池や湿地にのみ生育する。このような環境は兵庫県下ではふつうに見られるが、他の府県では少ないようで、絶滅危惧種とされている地域が多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヒナザサ |
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Fig.21 マツカサススキとエゾアブラガヤ 里山の経年した休耕田でマツカサススキ(前方)とエゾアブラガヤ(後方)が生育していた。 兵庫県下ではエゾアブラガヤは比較的普通に見られるが、マツカサススキは但馬地方を除いては稀で、RDB Bランクとされている。 ここは兵庫県南部の数少ない自生地のひとつであるが、非常に個体数の多い場所であり、同所的にタコノアシも見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 マツカサススキ ●湿生植物 エゾアブラガヤ |
Fig.22 シカクホタルイ イヌホタルイとカンガレイが生育する溜池で、両種の推定種間雑種とされるシカクホタルイが生育していた。 茎の太さはカンガレイとイヌホタルイの間ぐらいで、横断面はいびつな4角形〜不完全な5角形で、小穂の一部は不稔で細長くいびつに伸び、痩果は不稔のものと結実したものとが混じり、 その大きさは不揃いである。 出現の頻度は稀であり、あまり目にする機会はない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 シカクホタルイ |
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------- 写真帳 2011・9・24 - 10・2 ----------------------------------------------------------------------------------------- |
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Fig.23 ナガバノヤノネグサ 丹波地方の溜池土堤の草地で開花していた。この種に限ってはなぜか例年より開花が早い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ナガバノヤノネグサ |
Fig.24 溜池畔で開花するサデクサ やや富栄養な溜池畔の、ヨシ群落の切れた場所でサデクサが群生していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 サデクサ |
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Fig.25 センニンモとホザキノフサモ 湧水起源の水路内のセンニンモ(前方)とホザキノフサモ(後方)。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 ホザキノフサモ ●沈水植物 センニンモ |
Fig.26 沈水葉を出したヒツジグサ ヒツジグサはふつう開花期に花茎を上げるようになると沈水葉は消失するが、花茎をあげない若い個体では年中沈水葉が見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ヒツジグサ |
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Fig.27 群生するタチモ ノタヌキモやクログワイの生育する中栄養と見られる溜池に大群生していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水〜沈水植物 タチモ |
Fig.28 溜池のキクモ群落 富栄養な溜池のショウブ群落の水際にキクモが群生していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生〜沈水植物 キクモ |
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Fig.29 開花しはじめたタコノアシ 休耕田にて。まだ特徴的な花序を伸ばしていない時期のもの。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 タコノアシ |
Fig.30 モロコシガヤ 里山の溜池土堤に群生していた。自生地が局限されるイネ科草本。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.31 結実期のヤブレガサモドキ 畦畔土手の草地にて。環境省絶滅危惧TA類。兵庫県版RDB Aランク種。草刈り管理された良好な草地に生育する。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.32 ヒメヨモギ 兵庫県下では稀産種。とくに県南部では局所的に生育する。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |