西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2011年 7月

---------------------------------------------- 20th. Jul. 2011 ------------------------------------------

溜池の植物をめぐる
夏真っ盛りとなり、湿生・水生植物もシーズン真っ只中です。 フィールドに出ると出会う種も多くなり、今回は書き綴るうちに水辺の植物をメインに36の画像を取り上げることになり、かなり時間とエネルギーを要しました。 特に溜池とその周辺に生育する種が多くなり、そのため今回のタイトルとなりました。 溜池は水域となる開放水面のほか、農耕とくに稲作のサイクルにあわせて水位の増減のある移行帯、水を堰き止める草刈り管理される溜池土堤があり、ときに流入部の緩傾斜地に湿原を生じ、 溜池土堤下部には溜池からの滲出水による湿地を生じて、その直下に広がる水田を含め、植物の生育する様々な環境を創出しています。 開放水面には沈水・浮葉・浮遊植物、移行帯では抽水・湿生植物、周辺湿地では湿生植物、溜池土堤では草原性植物の生育の温床となり、山間や谷津奥の溜池周辺のフロラ調査を行うと、 ときに出現種数は200種を超えることがあります。 これらの環境は人為的に遅くとも江戸時代から続いた稲作の営為によって創出されたもので、保証された一定の開放水面、氾濫原的な水位の増減、定期的な湿地の撹乱、草刈りによる遷移の阻害が用意されたことによって 多くの湿生・水生・草原性植物が定着したものだと考えられています。 これにより溜池には後背湿地や氾濫原で生きていた水生・湿生植物と、禿山に生育していた草原性植物がともに観察できる場所となっています。 兵庫県は全国一を誇る約43000箇所の溜池があり、他の地域では絶滅危惧種となっているような種でも普通に見られるものがあります。

夏の溜池
Fig.1 夏の溜池
ヒメタヌキモの花が咲いていないかと、里山の自然公園にある雑木林に囲まれた溜池を訪れた。 水面にはジュンサイが浮かび、サイコクヒメコウホネが小さな群落をつくり、水際ではシズイが開花していた。 ヒメタヌキモの姿を探すが、見つからない。それどころかかつて水中に沢山見られたイヌタヌキモとノタヌキモの姿も全く無かった。 水面近くにはメダカが泳いでいたが、水底を歩く小さなアメリカザリガニの姿が眼に入った。 嫌な予感がした。諦めて溜池から流れ出た水路を見ると水が濁っていて、そこには沢山のアメリカザリガニがうごめいていた。 公園を管理されている方によると、ヒメタヌキモはやはりアメリカザリガニによって食害されて無くなってしまったという。 かつては別の溜池にマルバオモダカやヒツジグサ、ホソバヘラオモダカなども見られたが、それらも全て見られなくなってしまった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
サイコクヒメコウホネの花
Fig.2 サイコクヒメコウホネの花
アメリカザリガニが侵入した溜池だが、サイコクヒメコウホネは健在で、あちこちで開花しており、はやくも結実して熟す寸前の果実も見られた。 アメリカザリガニもコウホネ類のような太い根茎や硬い新芽には食指が動かないのかもしれない。 しかし、種子から発芽する幼苗は全て食べられてしまうだろう。 兵庫県の溜池で見られるコウホネ類はほとんどがこのサイコクヒメコウホネで、一部の地域でオグラコウホネが偏在し、コウホネは自生地は数ヶ所に限られている。 画像のように雄蕊が反り返るのがサイコクヒメコウホネの特徴で、コウホネは反り返らずに倒伏する。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水〜浮葉植物 サイコクヒメコウホネ
ヒツジグサ
Fig.3 ヒツジグサ
兵庫県南部ではこの時期、里山の溜池を訪れると必ずどこかでヒツジグサの開花を見ることができる。 西宮市内の溜池にも生育している場所があるが、手軽に見れる所は少なく、少し谷間を分け入った山間の溜池に自生地が多い。 前述したとおりアメリカザリガニの侵入に対しては無力で、一旦ザリガニが侵入してしまうと遅かれ早かれ絶滅してしまう。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮葉植物 ヒツジグサ
イヌタヌキモ
Fig.4 イヌタヌキモ
ジュンサイとヒツジグサが水面を覆う棚田上部の小さな溜池でイヌタヌキモの開花が始まっていた。 酷似するタヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種起源で不稔であるが、イヌタヌキモもちゃんと果実をつけているものは未だ見たことがない。 『日本水草図鑑』には雄性不稔が原因で結実しない集団があると記されているが、私の見ているものは全てこのようなタイプのものなのだろうか。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮遊植物 イヌタヌキモ
ホソバミズヒキモとコバノヒルムシロ
Fig.5 ホソバミズヒキモとコバノヒルムシロの果実
左がホソバミズヒキモ、右がコバノヒルムシロの花序と果実。 コバノヒルムシロが生育する溜池ではホソバミズヒキモも混生しており、果実がついていないと全くのお手上げだが、果実をつけている個体があると、2種が同時に見れるため比較が楽である。 沈水葉と浮葉はほとんど変わりないが、花序はコバノヒルムシロの方が短く、果実が密につき、果実は扁平で背稜には突起が並ぶ。 今回の観察ではコバノヒルムシロの退化(?)した花序の基部がムカゴ状となったものから、新植物らしきものが生じているのを発見した。 他の集団でも同様な現象があるか詳細な観察が必要である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮葉植物 ホソバミズヒキモ  ●浮葉植物 コバノヒルムシロ
マルバオモダカ
Fig.6 マルバオモダカの浮葉
丹波地方の溜池でマルバオモダカの成長途上の個体を3株を発見した。マルバオモダカはこれまで丹波地方からは記録のなかったものである。 マルバオモダカを発見した溜池にはこれまで1度訪れたことがあったが、その時は小穂から芽生するカンガレイの集団に気をとられて全く気付かなかった。 マルバオモダカはカンガレイが群生する水深30cm程度のところに見られ、それよりも深い場所ではヒシが優占し、そこではマルバオモダカは全く見られない。 この時期にはそろそろ抽水葉を出すはずだが、まだ見えないことから、充分に生育していない若い個体かもしれない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水〜浮葉植物 マルバオモダカ
オオフトイ?
Fig.7 オオフトイ?
西日本に分布するフトイはオオフトイである可能性が高いという。 オオフトイの特徴は開花前から小穂は赤紫色を帯び、柱頭は3岐し、根茎はフトイよりも太く剛強で赤紫色が強いという。 確かに私が見た範囲のものでは小穂は早くから赤紫色を帯びて、根茎は赤紫色で太いものが多い。 しかし、同一の小穂でも柱頭は2岐しているものもあれば3岐しているものもあり、これを決め手として使えるかどうかは怪しい。 根茎の太さについてはオオフトイより太いという記述があるが、具体的な数値は表記されていないため相対的なものでしかなく、一度東日本に自生するものをじっくり観察する必要を感じる。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ハタベカンガレイ
Fig.8 丹波地方新産のハタベカンガレイ
春先に丹波に出かけた際に、溜池の水際でなく、中央付近にカンガレイの仲間が生育しているのを見つけ、ハタベカンガレイかもしれないと眼をつけていた集団である。 そろそろ花序を出している頃だろうと確認に行くと、小穂からは2岐する柱頭を出し、葯も2mmに満たず、苞葉基部からの芽生がいちじるしく、ハタベカンガレイであると確認できた。 丹波地方でははじめての記録となる。丹波地方ではすでに250を越える溜池を調べているが、今のところハタベカンガレイが見られるのはここだけである。 溜池は250u程度の小規模なもので、水深は浅いが軟泥が30cm以上堆積しており、そこに大きな株が3個体と小型の個体が5個体ほど見られた。 同所的にフトヒルムシロ、ヒツジグサ、イトモがまばらに生育している。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 ハタベカンガレイ
ヤマトミクリ
Fig.9 ヤマトミクリ
これも今年の冬に発見した丹波地方のヤマトミクリの新産地の集団である。 ヤマトミクリは背丈が5cm程度の小さな草体となって常緑越冬する集団が見られ、ここのものもそのタイプのもので冬期に発見してもヤマトミクリであると判る。 このような常緑越冬する集団で水深の浅い場所に生育するものは、開花が早く、おそらく6月頃に開花し、7月になると果実が熟しているものが多い。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 ヤマトミクリ
コガマ
Fig.10 コガマ
播磨地方の溜池の縁ではコガマが開花していた。コガマは兵庫県下では自生地が少なく、兵庫県版RDBのBランクとされている。 よく見かける近縁のガマやヒメガマはコガマよりも開花が早く、すでに花序の雌花部は茶褐色になっているものが多い。 花序の雄花部と雌花部は間隔を空けず、相接してつき、間には早落性の膜質の苞葉が1個つく。 雌花部は時に中間に節ができ、2段になるものがあり、画像にもそれが見られる。 この雌花部中間にできた節の部分にも早落性の苞葉がつくことがある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 コガマ
サイコクヌカボ
Fig.11 サイコクヌカボ
播磨地方の田園地帯の隅に掘られたかなり深い素掘りの水路内にサイコクヌカボと思われるタデ科草本が生育していた。 サイコクヌカボは播磨地方、とくに東播磨では普通に見られる種で、かつては兵庫県版RDBにリストアップされていたが播磨地方での自生地の多さと生育密度が高いためRDB指定が解除されたものである。 播磨地方では普通だが、それ以外の地域では稀産種となる。 このような地域的な分布の偏りは生育環境の限られる湿生・水生植物ではよく見られる現象である。 例えば、丹波地方ではミズワラビ、タウコギ、ミズニラ、イトモなどは比較的普通に見られ、そこに住んでいる人にとっては雑草扱いとなるが、他の地域では稀産種となる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 サイコクヌカボ
ヤナギヌカボ
Fig.12 ヤナギヌカボ
兵庫県内のヤナギヌカボの分布状況を調べるために播磨地方で記録のあった場所に出掛けた。 事前に聞いた情報では溜池畔に群生しているとのことであったが、公園化された溜池畔は整備が行き届きすぎており、自然護岸となっている場所ではメリケンムグラが密生しており、 溜池内にヤナギヌカボは発見できなかった。 落胆しながらも公園内を全て廻ってみると、コンクリート枡内がハス田となっている場所に水田雑草のごとく生育するヤナギヌカボが確認できた。 ここにはアゼナ、イボクサなどの水田雑草は見られるが、メリケンムグラの侵入はない。侵入したとしても毎年撹乱を受けるハス田ではメリケンムグラも確実には定着できないだろう。 ヤナギヌカボは1年草であり、新たに安住の地を見つけたことになる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヤナギヌカボ
ホソバノウナギツカミ
Fig.13 ホソバノウナギツカミ
山間の田園にある溜池畔ではホソバノウナギツカミが開花していた。 溜池は満水状態で、ホソバノウナギツカミは抽水状態で開花していた。 田園の中にありながら、出現種数の多い溜池で、抽水状態でヒメガマ、ショウブ、カンガレイ、クログワイ、ヘラオモダカなどが見られ、サイコクヒメコウホネ、ヒシ、ヒルムシロなどの 浮葉植物、水中にはイヌタヌキモ、セキショウモ、スブタが生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ホソバノウナギツカミ
アサザ
Fig.14 アサザ群落
山際の小さな溜池でアサザの群落が見られた。アサザは花をつけない集団があり、探してみたが開花が見られないため、ここの集団も開花しない集団なのかもしれない。 アサザはなかなか見られない浮葉植物で、兵庫県版RDBではBランクとなっている。 稀少種を見つけても、開花が見れないとなると発見の嬉しさも半減するが、ひと月後に再び訪れて確認したい。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮葉植物 アサザ
クロモとヤナギモ
Fig.15 クロモとヤナギモ
播磨地方の谷津の溜池で水生植物の密生する溜池があり、水中の多くの部分をヤナギモとクロモが密生していた。 溜池より上部の谷津は古くに耕作放棄された休耕田が見事なハンノキ林となって谷の奥まで続いており、ミドリシジミが生息していた。 クロモは県南部の特に東播磨では普通に見られる。ヤナギモは主に河川に見られ、溜池で見られることは珍しく、花序を上げているものがないかと探したが見つからなかった。 この溜池では他にサイコクヒメコウホネ、ジュンサイ、ヒシ、アギナシ、イヌタヌキモ、ミズユキノシタ、クログワイが生育していた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●沈水植物 クロモ
ハリコウガイゼキショウ
Fig.16 ハリコウガイゼキショウ
ヒツジグサ、コウホネ類、ヌマトラノオ、ミソハギなど見栄えのする花が開花する頃、湿地や溜池畔で地味な果実を結実するハリコウガイゼキショウはほとんど見向きもされない草本であるが、 良好な湿地環境が維持されている指標となる種だと考えている。 ハリコウガイゼキショウが生育する湿地や溜池畔は長い間撹乱を受けずに古くから生育環境が残されている場所で、稀少種をともなうことが多い。 ときに棚田の素掘り水路内に生育していることもあり、このような場所はかつては湿地のあった場所が水田化されたもので、畦畔や水路にアギナシやオニスゲ、ヤチカワズスゲなどが出現する。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ハリコウガイゼキショウ
ヒロハノコウガイゼキショウ
Fig.17 ヒロハノコウガイゼキショウ
安定した湿地や溜池畔に生育するハリコウガイゼキショウに対して、こちらは撹乱後の遷移初期の湿地に現われる種である。 改修直後の撹乱された溜池畔、休耕中の湿田や管理休耕田で見られることが多い。 同様な環境ではよく似たコウガイゼキショウやハナビゼキショウも出現するが、開花結実はヒロハノコウガイゼキショウが最も遅く、この時期に開花するのはヒロハノコウガイゼキショウである。 湿地環境が安定したり、遷移が進むとヒロハノコウガイゼキショウは次第に姿を消していく。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヒロハノコウガイゼキショウ
セリ
Fig.18 満開のセリ
水田の減反地でセリが群生し開花全盛期となっていた。 身近な水田雑草で、春の七草としても親しまれているが、群生して開花する姿は美しい。 ウチではよく野生のセリを料理に利用している。 スーパーなどで売られているものはハウス栽培されたものだが、野生のものは葉が短く、肉厚で香りも高い。 花茎が上がる頃の葉は硬くてもう利用できないので、匍匐枝を利用するが、食べるほど集めるには手間がかかる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 セリ
ミソハギ
Fig.19 ミソハギの花
西宮市内の水田の用水路脇ではミソハギが開花し始めていた。 ミソハギは「禊(みそぎ)萩」が転訛したものであり、お盆の時にミソハギの枝を水にひたして仏前の供物に禊ぎをしたことからきたという。 そのため「盆花(ぼんばな)」と呼称されることがある。まだお盆の時期ではないが、長期にわたって開花する。 花には短花柱花、中花柱花、長花柱花があり、画像のものは花柱が長く突き出しており、長花柱花である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ミソハギ
チダケサシ
Fig.20 チダケサシ
丹波地方の溜池畔でチダケサシが開花していた。この時期になると溜池畔や用水路脇などでよく見かけるが、アカショウマに酷似し、これも同じような場所に出現する。 分布には多少偏りがあるようで、西宮市内ではチダケサシは見かけない。 チダケサシは「乳茸刺」だが、チチタケは兵庫県の里山ではあまり見かけないキノコで、チチタケを刺すのには使わなかったはずだ。 チチタケは美味しいダシが出るキノコだが、兵庫ではあまり出会う機会がなく残念である。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 チダケサシ
ヤブカンゾウ
Fig.21 ヤブカンゾウ
西宮市内の河川堤防ではヤブカンゾウの群落が、夏の強い日差しにも負けず頑強に開花していた。夏の暑い日差しに負けそうな時でも、このような力強い開花を見ると励まされる。 つぼみは食用となるので、腹が空くと時々むしって齧る。クセはなく、ほのかに甘みがあるが、春先の新芽のほうが美味しい。 つぼみの茹でて乾燥したものを「金針菜(きんしさい)」と同様に利用でき、鉄分の含有量が多いらしい。 里山に限らずあちこちで見かける草本なので、貧血気味の人は利用するとよいかもしれない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ヤブカンゾウ
ユウスゲ
Fig.22 ユウスゲ
内陸部では未だ開花していなかったユウスゲだが、播磨地方南部の溜池土堤ではユウスゲの花が沢山開花していた。 ノカンゾウやヤブカンゾウよりも自然度の高い湿った草地に出現し、県南部では流紋岩質基岩の広がる地域を中心に分布している。 西宮市内には流紋岩質凝灰岩の基岩地があるが、そこに良好な草原環境がないために自生地はない。 先のヤブカンゾウとは違い、夕方になって儚げなレモンイエローの花を開く。花茎や葉もヤブカンゾウと比べると細い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ユウスゲ
タチカモメヅルの花
Fig.23 タチカモメヅルの花
ユウスゲの開花する溜池では池畔でタチカモメヅルも開花が始まっていた。 つる状に伸びた茎の葉腋に1個ずつ花をつけるが、花は紫褐色の渋い色合いで、蕊柱の周囲を副花冠が取り囲み、面白い形状をしており見飽きない。 ユウスゲやタチカモメヅルが出てくるような溜池では他にも様々な面白いものが出てくる。 ここでは土堤上にヒキヨモギの群生やリンドウが生育し、タチカモメヅルとともにカキランの群落がみられた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 タチカモメヅル
コガンピの花
Fig.24 コガンピの花
播磨地方の溜池土堤で早くもコガンピの開花が始まっていた。西宮市内の集団はやや高標高地に生育するためか、花芽が上がっている段階で、まだ開花していない。 コガンピは草刈り管理の行き届いた草地に生育する種であり、本来は自然下で草地の形成される被土の少ないハゲ山や、山火事によって草地が更新されるような場所に生育していたと考えられる。 このような草原環境は減少傾向にあるため、コガンピの見られる場所では草原環境に生育する稀少種が随伴することが多く、良好な草原環境の指標種とすることができる。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 コガンピ
カモノハシの開花
Fig.25 カモノハシの開花
播磨地方では各所でカモノハシが開花・結実していた。 兵庫県下では南部の低湿地で見られる種であり、西宮市内では低地は徹底的に開発されているため、一部の湿地や溜池畔でしか見られない。 比較的撹乱の少ない湿地や溜池畔で見られることが多く、富栄養な環境下では見られず、中栄養な土壌の湿地に出現することが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 カモノハシ
アシカキ
Fig.26 アシカキ
アシカキもカモノハシと同様、県南部に分布の中心域がある湿生植物である。 カモノハシよりもヒシが繁茂するような栄養条件のよい溜池を好み、同様な環境に生育するウキシバとともに見られることがある。 これら水辺に生育する在来イネ科植物は、繁殖力旺盛な外来種キシュウスズメノヒエやメリケンムグラに押され気味である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アシカキ
ミミカキグサ
Fig.27 ミミカキグサ
播磨地方の溜池畔ではミミカキグサの開花が始まっていた。小さな黄色い花が咲いてはじめてその存在がわかる種である。 非常に小さな葉を泥中をはう根茎から1個ずつ出し、開花個体の周辺では時に足の踏み場も無いほど密生していることがある。 葉は生育環境によって形を変え、湿った地表では短いへら形であるが、水没すると線状に伸びた沈水葉となり、ミミカキグサは表水のあるような場所に生育することが多いため、 多くは両方の中間的な形状となる。 画像のものも、葉は線状にやや伸びている。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ミミカキグサ
ヒナノカンザシ
Fig.28 ヒナノカンザシ
溜池直下にある基岩がむき出した場所に湧水による貧栄養湿地が成立し、ヒナノカンザシが開花していた。 ヒナノカンザシも小さな草体で、これも花をつけないと見つけにくいものである。 花も非常に微小で、長さ1〜2mmほどしかなく、注意していないと見落としてしまう。 全国的に減少しつつある湿生植物で、兵庫県版RDBではCランクとなっている。 ここでは湿地の被植の少ない箇所でマネキシンジュガヤ、ヒメオトギリ、イトイヌノハナヒゲ、サギソウなどとともに見られた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヒナノカンザシ
トウカイコモウセンゴケ
Fig.29 トウカイコモウセンゴケ
播磨地方の溜池から続く素掘りの用水路脇にトウカイコモウセンゴケの群生が続いていた。 開花は日当たり良い午前中の早い時間に限られ、この日は降雨があったため開花が見られなかった。 この仲間の開花画像はあらかじめ自生地を決めておいて、晴れた日の朝方に狙いを定め行かないと綺麗な開花画像が撮れない。 トウカイコモウセンゴケは調査の産物としてなぜか夕方近くに出会うことが多く、相性があまりよくないようだ。
トウカイコモウセンゴケはモウセンゴケとコモウセンゴケとの雑種が起源となった種とされ、次のコモウセンゴケに酷似する。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 トウカイコモウセンゴケ
コモウセンゴケ
Fig.30 コモウセンゴケ
先のトウカイコモウセンゴケは雑種起源の種であり、その片親がこのコモウセンゴケである。もうひとつの片親はモウセンゴケである。 コモウセンゴケは兵庫県下ではトウカイコモウセンゴケやモウセンゴケよりも自生地が限られ兵庫県版RDBではCランクとなっている。 このコモウセンゴケはFig.28のヒナノカンザシが生育していた溜池直下の湿地に生育しているもので、ヒナノカンザシが生育する場所よりも、やや乾燥した場所に ノギラン、イシモチソウ、ヤマトキソウ、キキョウなどとともに生育している。 この場所を見つけたのも夕刻であり、花はすでにすぼんでしまっている。 この湿地ではサギソウの生育密度の高い箇所ではモウセンゴケも生育していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 コモウセンゴケ
ノギラン
Fig.31 ノギラン
この時期はユリ科の草本の開花が集中する時期であり、ノギランも溜池畔、湿地、棚田の土手、林縁、林道脇など様々な場所で開花している。 成長のよいものでは花茎が分枝して高さは50mcを越えるものも見られる。 どこにでも現われる種であるが、溜池土堤では草原性植物や湿生植物とともに出現することが多いため、ノギランの個体数の多い場所では一応注意する必要がある。 この溜池土堤ではワレモコウやツリガネニンジンに混じって、ユウスゲやコガンピなどが見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ノギラン
タカトウダイ
Fig.32 タカトウダイ
溜池畔の草地にタカトウダイが生育していた。 タカトウダイは日当たり良い湿った草地、湿地、荒地などに生育する。 自生地の溜池は鉱山跡という特殊な環境下にあり、ショウブ、ヒメガマ、ミソハギといった通常の湿生植物も生育するが、溜池畔にはたたら製鉄の残滓であるスラッグらしきものも散在する。 このような場所によく見られるヘビノネゴザが多く、オトコエシの個体数がいちじるしく多い。 タカトウダイは溜池畔のススキやシバなどが成育する場所にオトギリソウなどとともにかたまって生育していた。 兵庫県下ではあまり頻繁に見かけることはなく、RDBのCランクとなっている。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 タカトウダイ
キヨスミギボウシ
Fig.33 キヨスミギボウシ
渓流の急な斜面で群生するキヨスミギボウシが開花していた。 兵庫県の六甲山地に見られるものは国内分布の西限の集団であり、兵庫県RDBではCランクとされている。 キヨスミギボウシが群生する場所は破砕された礫が表面に堆積した半ば崖地となっている急斜面で、そこにシライトソウとヘビノネゴザとともに生育している。 生育している種が限られるため、他の場所とは土壌が異なるようである。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 キヨスミギボウシ
クジャクシダ
Fig.34 クジャクシダ
クジャクシダはシダのなかでも非常に美しいものの一つで、葉軸が2叉状に分岐する他のシダには見られない特徴があって、そのため羽片が扇状に開き、まさにクジャクが羽根を開いたように見える。 葉軸も紫褐色を帯びて繊細であり美しい。ホウライシダ属の仲間にはホウライシダやハコネシダを含めて美しいものが多く、栽培されることも多い。 このうちハコネシダは栽培が難しいという。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西のシダ クジャクシダ
エビガライチゴ
Fig.35 エビガライチゴ
岩場から垂れ下がっているイチゴの仲間が実をつけていた。 最初はナワシロイチゴだろうと思ったが、よく見ると枝には赤褐色の毛が密生し、その間にトゲがあった。 葉の頂小葉にも柄があってエビガライチゴであった。枝に密生する毛は若い頃には腺毛であるが、果実期には腺体が枯れて落ち、粗い毛となっている。 葉裏にはくも毛が密生して白いのも特徴である。果実の味はまあまあで、ナガバモミジイチゴよりもやや劣る。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コジキイチゴ
Fig.36 コジキイチゴ
丹波地方では林道脇などの撹乱を受けた場所で、一時的にコジキイチゴが密生していることがある。 コジキイチゴは「甑(こしき)苺」が転訛したものだろうという説がある。 実をむしると、偽果部分が取れてその内側に空洞があり、これを弥生時代の壺に見立てたものだという。 コジキイチゴは画像のように多くの果実が熟し、落果しはじめてくると、果実のついた枝の葉は枯れてしまうようで、その様子はわびしく、コジキイチゴという名にもうなずける状態となる。 果実の味だが、ほとんど味はなく、種子が多い。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
---------------------------------------------- 12th. Jul. 2011 ------------------------------------------

夏の到来
近畿地方では梅雨明けが宣言され、いよいよ本格的な夏がやって来ました。 しかし、このところ野暮用が多く、時間が空いても終日降雨があったりで、あまりフィールドに出れませんでした。 今回は合間合間に探訪した近場のフィールドと、継続調査しているオオマルバコンロンソウ自生地周辺で見られたものを掲載しましたが、取り上げた画像の点数も少なくなってしまいました。 それを補うため、今回は出会いの多かった昆虫類の画像が多くなっています。

カキラン
Fig.1 カキラン
播磨地方の海岸でユウスゲらしきものを見ていたので、もしかして内陸部の自生地でも開花が始まっているかもしれないと思い、ユウスゲの自生地に出掛けた。 内陸の自生地では例年7月終りから8月あたまにかけて全盛期を迎えるが、暑い日が続いているので開花期が早まっている可能性があると考えたが、やはりまだ時期尚早だった。 ユウスゲの自生地ではカキランが全盛期で、溜池土堤のあちこちで無数に開花しており、ユウスゲは花茎があがりつつあるところだった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 カキラン
ノハナショウブ
Fig.2 ノハナショウブ
ユウスゲ自生地ではノハナショウブの全盛期が終り、残り花が点々と開花していた。 花は新鮮ではなかったが、もともと個体数の多い群生地であるため、残り花といっても50花以上はまだ開花していた。 ユウスゲ、カキラン、ノハナショウブが見られる非常に自然度の高い溜池土堤周辺ではノテンツキが花茎を上げ、スズサイコやコバギボウシも開花しはじめていた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ノハナショウブ
シズイ
Fig.3 シズイ
市内の里山の溜池畔では満水状態の溜池から花茎を立ち上げたシズイが開花していた。 シズイは西日本では稀な種で、兵庫県下でも自生地が少なく、兵庫県版RDB Bランクとされている。 東北地方など東日本では水田に侵入して塊茎で栄養繁殖し、農薬にも強く強外草となっているようだが、 こちらではジュンサイやフトヒルムシロ、イヌタヌキモなどが生育する貧栄養気味な溜池に出現し、 水田に現われることは決してない。 シズイは兵庫県下では西宮・宝塚・神戸を中心とした阪神地域を中心に分布域が集中しているように思われる。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 シズイ
イヌガンソク
Fig.4 イヌガンソク
西宮市内の多湿な山腹斜面の林道脇にイヌガンソクが1株だけ生育していた。 イヌガンソクは葉の長さが1mを越す大型の夏緑性シダで、生えていれば遠くからでもよく目立つ。 兵庫県産維管束植物のリストでは西宮市での記録はないが、市内では個体数は少ないが数ヶ所で生育していることを確認している。 草体が大きく、標本にするには嵩張るため採集されていないだけかもしれない。 周囲にはイノデ、ヤマヤブソテツ、ゼンマイ、イワガネゼンマイ、イワガネソウ、イノモトソウ、オオバノイノモトソウ、ヤマイヌワラビ、キヨタキシダ、シケシダ、 リョウメンシダ、ハカタシダなどのシダ類が数多く生育していた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西のシダ イヌガンソク
ハクモウイノデ
Fig.5 ハクモウイノデ
六甲山地ではハクモウイノデが胞子葉を出し始めていた。 ハクモウイノデは春先に栄養葉を地表に広げるように出し、夏になると栄養葉と形状が似るが葉柄も葉身も長い胞子葉を直立して出す。 似たものに母種ミヤマシケシダと別変種ウスゲミヤマシケシダがあるが、両種は兵庫県下では但馬地方の山地に生育し、六甲山地では見られない。 ハクモウイノデはやや標高の高い多湿の場所を好み、画像のものも沢の源頭部に生育しているもので、周辺にはアカショウマ、クサコアカソ、ミズヒキ、クサアジサイ、 ヤマイヌワラビ、キヨタキシダ、ホソバシケシダなどが見られた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西のシダ ハクモウイノデ
ナツツバキ
Fig.6 ナツツバキ
六甲山地ではナツツバキの開花が始まっていた。 西宮市内では六甲山地の中腹より上に自生しており、この時期山頂に向かってクルマを走らせると、所々で落下した花で道路が白くなっている場所もある。 ナツツバキは落葉高木で樹高10mを越えるものが多く、なかなか近くで花を撮影できるものがなかったが、今回ようやくまともな画像を撮ることができた。 樹幹は長いモザイク状にはがれ、その痕は灰白色や淡褐色、赤褐色の斑模様となり、その様子はサルスベリやリョウブの樹幹と似ている。 この時期の山で、ヤマアジサイやイワガラミとともに是非出会いたい花のひとつである。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
結実したアリマグミ
Fig.7 結実したアリマグミ
西宮市内の棚田の用水路脇に刈り込まれたイヌツゲ、ヒサカキ、ハンノキ、サクラバハンノキなどとともにアリマグミが生育し、熟した果実を沢山つけていた。 アリマグミは兵庫県から静岡県にかけて自生するが、自生地は局所的で個体数もあまり多くないため、兵庫県版RDBではCランクとされている。 果実はアキグミのものとよく似ているが、果実が熟す時期が異なり、アリマグミは初夏から夏に熟し、アキグミはその名の通り秋遅くに熟す。 またアリマグミの果実は基部と中部の境に段差があり、若い果実ではそれがより顕著となることにより区別できる。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
シオデの雄花
Fig.8 シオデの雄花
シオデは西宮市内では見られず、私のよく出かけるフィールドでは三田市よりも北の地域に多い。 前回のフィールドメモでは出芽の画像を掲載したが、今回のものは三田市の里山の林縁で見かけたもので、雄株の開花が始まっていた。 雌雄異株であるため、近くに雌株がないか探したが見当たらなかった。雌株のほうは雄株よりも開花期が遅いのかもしれない。 林縁草地にはよく似たタチシオデが生育するが、シオデが開花する頃にはすでにタチシオデの果実はかなり充実しており、シオデの開花期は1ヶ月ほど遅く、花被片が著しく外曲するのが特徴。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ムラサキニガナ
Fig.9 ムラサキニガナ
ムラサキニガナは兵庫県下では林縁の草地や林道脇などにふつうに見られるキク科アキノノゲシ属の草本で、西宮市内でもよく見かける。 画像のものは丹波地方の林縁に生育していたもので、雑木林の縁に沿って多数の個体が開花していた。 草体は1mを越えるものもあるが、草体に比べて花は小さく、離れた位置から見ると花が開花しているのかどうかよく解らないほどだが、 近寄ってじっくり観察すると、花自体は淡紅紫色で大変美しいものだと解る。 この花の美しさを何とか伝えられないかと、木洩れ日がスポットのように花に当たっているものを撮影してみたが、どうであろうか?
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ムラサキニガナ
ミチバタガラシ
Fig.10 ミチバタガラシ
丹波地方の神社の手水鉢の周りや石垣の下にミチバタガラシが生育していた。 いかにも雑草然とした草本で、イヌガラシと違って花弁もなく目立たないが標本数は少ないようで、兵庫県版RDBではCランクとなっている。 非常に地味で目立たないため標本数が少ないのか、ほんとうに自生地が少ないのかは今後の調査によって明らかになるだろう。 自生地は今回のような土壌の撹乱を受けていない古い神社や寺院、道端などの湿った場所のようで、ここでは周辺にゼニゴケ、ジャゴケの仲間、アワゴケ、タネツケバナ、 ヒメヨツバムグラ、小型のオオバコ、タチツボスミレなどとともに生育していた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ミチバタガラシ
ヤマクルマバナ
Fig.11 ヤマクルマバナ
里山の山際に引かれた導水路の脇にヤマクルマバナが生育し、開花が始まっていた。 この仲間にはクルマバナ、トウバナ、イヌトウバナ、ヤマトウバナ、ミヤマトウバナ、ミヤマクルマバナなどよく似て紛らわしいものが多い。 ヤマクルマバナは雑木林の半日陰となる林縁の湿った場所に生育し、日当たり良い場所には見られず、花は小さくて白味が強く、萼は多毛で腺毛が混じり、 葉は薄くのっぺりとしており、中脈から内側に折れることがない。 ここでは同様な環境を好むコアカソ、チダケサシ、ヤブタビラコ、シソバタツナミなどが生育していた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ヤマクルマバナ
ナガバハエドクソウ
Fig.12 ナガバハエドクソウ
この時期に雑木林で開花する花は目立たないものが多いが、ナガバハエドクソウも長くのびた花茎の先に小さな花を開きあまり目立たない。 一ヵ所にかたまって生育している場所では気付かぬ人はいないだろう。梅雨の終わり頃、雑木林の林下の日陰〜半日陰環境でふつうに見られる種である。 非常によく似た別変種にハエドクソウがあるが、ナガバハエドクソウよりも見かける機会は少なく、開花期もナガバハエドクソウよりも遅いようだ。 ナガバハエドクソウの葉身基部はくさび形となるのに対し、ハエドクソウの葉身基部は浅い心形〜切形となることによって区別できる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ナガバハエドクソウ
イワヒメワラビ群落
Fig.13 イワヒメワラビ群落
伐採跡地にイワヒメワラビが群生していた。 イワヒメワラビはシカの忌避植物で、シカの食害の激しい地域の伐採跡地、崩壊地などの斜面でこのような光景をよく見かける。 ここでは斜面のなだらかな場所ではマツカゼソウが群生しているが、これもシカの忌避植物で、すぐ近くの植林地の林縁にはニシノホンモンジスゲが群生するが、 こちらはシカの不嗜好植物で、付近はシカの食害によってコントロールされた植生となっていた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西のシダ イワヒメワラビ
ハンミョウ
Fig.14 ハンミョウ
社寺の日当たり良い裸地にハンミョウが生息していた。ハンミョウは林道上などでよく見かける甲虫であるが、近寄ると飛翔してなかなか写真を撮らしてくれない。 境内の裸地は面積が狭く、ハンミョウの移動範囲が限られていたため、そっと忍び寄ることを何度か繰り返すうち、むこうも馴れてきたのか、じっと立ち止まってくれて撮影することができた。 夕闇が迫る頃にはハンミョウも活性が低下し、静止して休むので、その時に発見できれば撮影は楽である。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ヒカゲチョウ
Fig.15 樹液に来たヒカゲチョウ
雑木林の林縁のクヌギの木のシロスジカミキリの脱出口から樹液がしみ出しており、ヒカゲチョウが樹液を吸いに来ていた。 里山の雑木林ではよく似たクロヒカゲやサトキマダラヒカゲとともによく見かける種であり、飛翔力は強いようで飛ぶのは速いが、蛾類を思わせるようなやや眼暗滅法な飛び方をする。 幼虫はネザサやススキなどで見かけることがある。 クヌギの樹液にはオオムラサキやスミナガシもやって来るが、最近は見かける機会が少なくなった。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コオニヤンマ
Fig.16 コオニヤンマ
この日は昼過ぎに35度近くまで気温が上昇し、木陰で休んでいる昆虫が多く、コオニヤンマの林縁の木陰のクワの葉にとまって休んでいた。 名にヤンマとつき、身体の模様もオニヤンマに似ているが、サナエトンボの仲間であり、オニヤンマよりも早い時期に現われる。 ヤゴは山間の小河川や棚田の脇の流れなど棲み、川岸の草の下に網を入れるとコシボソヤンマのヤゴとともに入ってくることが多い。 コオニヤンマのヤゴは枯葉のような扁平な体形で、一度見ると忘れることがなく、5年かけて成虫となる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ヤツメカミキリ
Fig.17 ヤツメカミキリ
まだ早朝の気温の上がらない時間、林縁のネザサの上でヤツメカミキリが静止していた。 ヤツメカミキリはトホシカミキリ族の仲間で、この仲間は色彩と模様の形状の美しい種が多い。 成虫はサクラ類の粗朶で集まり、ここでもお約束のように伐採されたヤマザクラの粗朶が脇に積まれていた。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ラミーカミキリ
Fig.18 ラミーカミキリ
こちらもトホシカミキリ族の仲間で、里山の道端や土手に生えるクサマオ(カラムシ、ラミー)の葉の上でよく見られる種である。 最近では前胸背の2つの黒点を眼に見立ててパンダカミキリやガチャピンカミキリなどと呼ばれて人気があるようだ。 ラミーカミキリが居るクサマオには大抵アカタテハが葉を折り畳んで巣を作っていることが多く、フクラスズメの幼虫もよく見かける。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ヨツスジハナカミキリ
Fig.17 ヨツスジハナカミキリ
夕暮れの登山道脇のヨメナの仲間の葉上でヨツスジハナカミキリが休んでいた。 ハナカミキリの仲間は非常に種類が多いが、その中でもアカハナカミキリなどとともにふつうに見られる種であり、クリの花上で見かけることが多い。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
クロオビツツハムシ
Fig.18 クロオビツツハムシ
棚田の畦のチガヤやススキ、イタドリの葉上に非常に多くのクロビツツハムシが集まっており、ススキの葉を後食したり、交尾している個体が見られた。 体長5mmほどの小さなハムシであるが、赤と黒の模様と光沢があって美しい。 ハムシ類は小さなものばかりだが、色彩の美しいものや形態の面白いものが多く、見つけるとカメラを向けてしまう。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ジンガサハムシ
Fig.19 ジンガサハムシ
ビロードイチゴの葉上でジンガサハムシが静止していた。 形状はまさに陣笠のようで、なぜこのように前胸背板と前翅を傘のように広げる必要があったのだろうか。 雨が嫌いだったとか、敵に足から襲われることが多かったのだろうとかいろいろと妄想を誘う形状である。 ジンガサハムシの仲間は背面にメタリックな部分を持つものが多く、美しく不思議なハムシである。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
アカクビホソハムシ
Fig.20 アカクビホソハムシ
湿地化した休耕田のハンノキ幼木の葉上にアカクビホソハムシが静止していた。 食草はツユクサであるが周囲にツユクサは見られずイボクサが繁っているので、同属であるイボクサも食草としている可能性が高い。 ヤマイモハムシに似るが、前翅先端がわずかに褐色となることから区別できる。画像のものは斜め上から捉えたため翅先の褐色部分が写っていない。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
アカクビナガハムシとハゴロモの幼虫
Fig.21 ヤマカシュウに集まったアカクビナガハムシとハゴロモsp.幼虫
兵庫県産維管束植物のリストには篠山市でのヤマカシュウの記録はないが、数ヶ所に自生していることを確認している。 しかし、他の木の上に草体を広げて繁っているような生育良好な個体でも、開花結実しているものを見たことがない。 開花結実が見られないことが、標本が取られなかった理由のひとつであるかもしれない。 この日も眼をつけておいたヤマカシュウに花が付いていないかどうか調べていたところ、非常に鮮やかな赤い体色を持つハムシを見つけた。 前々回に紹介したルイスクビナガハムシと同属のアカクビナガハムシである。 早速撮影しようとコンデジを用意していると、尻にフサフサした毛を広げたベッコウハゴロモかアミメハゴロモと思われる幼虫が枝上を移動してやってきた。 ヤマカシュウの篠山市新産の標本は得られなかったが、面白い画像が撮れた。惜しむらくは露出オーバーでハゴロモの幼虫が白飛びして模様がよく解らなくなってしまったことだ。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ヤマカシュウ
エダナナフシ
Fig.22 エダナナフシ
シャクトリムシとともに木そのものを擬態する昆虫の代表。 毒を持つジャコウアゲハに擬態するアゲハモドキや、ハチに擬態するトラフカミキリなどのようなヒネリの効いた擬態ではなく、即物的な擬態が潔い。 解りやすい擬態なので大人も子供に説明しやすく、そのためか子供に人気がある。 エダナナフシはただのナナフシ(ナナフシモドキともいう)とともに比較的よく見かける。ナナフシのほうはエダナナフシよりも触覚がはるかに短い。 画像のエダナナフシは触覚は前肢とともに前方にピンと突き出し、精一杯枝になろうとしているお決まりのポーズをとっている。 かつてはよく見かけたナナフシの仲間でトゲナナフシという種がある。 体色は褐色で、トゲを持つ背面は枯れたバラの小枝のように見え、地表に落ちた枯枝を意識しているのか地表を歩いていることが多い。 これなどはわざわざ枯れてしまった枝に擬態しているのだからヒネリの効いた擬態だといえるかもしれない。
(画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)


<<<戻る < 2011年6月へ TOPページ 2011年8月へ >