西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2011年 6月

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播磨の海岸と但馬南部の植物
相変わらず天気は湿り勝ちです。なぜか北の方に調査に出かけると雨に降られますが、西南方面に出かける時には必ず好天に恵まれます。 今回も播磨の海岸の岩場ではカンカンデ照りで、紫外線に強烈に焼かれました。 これまで但馬と播磨の海岸を見て歩きましたが、県下の海岸ではあとは淡路島の海岸が残っています。
この日播磨の海岸周辺で観察できた主な種は以下の通り。(太字は兵庫県版RDBに記載されている種)
フサスゲ、メアオスゲ、ハマアオスゲ、マスクサ、ジュズスゲ、コウボウシバ、コウボウムギ、シオクグ、イソヤマテンツキ、イヌクグ、ハマエノコロ、ボウムギ(帰化)、アイアシ、ツルヨシ、 ススキ、チガヤ、ハナヌカススキ(帰化)、ナガミノオニシバドロイ、クサイ、ホソイ、コゴメイ(帰化)、ノカンゾウ、ワスレグサsp.、オニユリ、ツルボ、カナビキソウ、ママコノシリヌグイ、 イシミカワ、ツルナ、ウシオツメクサ、ウシオハナツメクサ(帰化)、ハマツメクサ、ハマナデシコ、シロバナマンテマ(帰化)、ホウキギ(帰化)、アリタソウ(帰化)、マルバアカザ、 ホソバハマアカザ、ホコガタアカザ(帰化)、オカヒジキ、ハママツナ、タガラシ、ハマエンドウ、ゴキヅル、アレチウリ(帰化)、ハマゼリ、ハマボウフウ、ハマウド、 ノラニンジン(帰化)、ハマボッス、ハマサジ、ガガイモ、スズサイコ、カワラマツバ、アオイゴケ(逸出)、ハマヒルガオ、アメリカネナシカズラ(帰化)、ハマゴウ、 セイヨウヒキヨモギ(帰化)、フクド、ノジギク、ウラギク、ツワブキ、オニヤブソテツ、マサキ、ウバメガシ、トベラなど。
但馬南部には丹波地方とどの程度に植相が違うのかを知っておく必要を感じて出掛けました。 先に但馬の海岸と高原を訪れる途上に立ち寄った但馬南部の棚田の土手に、丹波では少ししか見られないオカオグルマが沢山群生していたためです。 今回は丹波では見かけることがなかったコウモリカズラやミゾコウジュの生育が見られ、まだはっきりとしたことは言えませんが、山一つ越えただけでかなり植相が異なるかもしれません。 丹波地方では山間の渓流畔や林道上ではどこでもクラマゴケが見られるのですが、こちらでは全く見かけませんでした。 スゲ類はすでに時期が遅いようで、ヌカスゲ節の多くは果胞が脱落して見られず、路傍にはジュズスゲやヤワラスゲばかりが目立ち、用水路脇や休耕田でゴウソが見られただけで、 面白いものには出会えませんでした。 シカの食害は但馬南部でも激しく、植生が豊富なのはやはりシカ除け柵の内側で、とくに社寺周辺の林内や林縁に多くの種が見られ、境内の泉から流れ出した水路内には わずかに沈水葉のナガエミクリの生育も見られました。 溜池にはコイが放流されている場所が多いようで、わずかに1ヵ所でイトモが開花結実していました。 スゲのシーズンはあっという間に過ぎて、水生植物のシーズンが始まったようです。

フサスゲ
Fig.1 フサスゲ
播磨地方の海岸近くの林縁ではフサスゲの大株が点在していた。公園の林縁では多くの個体が草刈りに遭って、低い花序が数本出ていてわずかにフサスゲだとわかる。 草刈りに遭わないものは画像のように光沢のある雌小穂をつけた花序を多数あげており、見事な眺めとなっていた。 日当たりよい海崖の湧水付近に生育するものもあり、そのような環境下では草体は小さくなり、全体が黄緑色となって、すでに果胞が落ちかかっているものが多かった。
兵庫県のフサスゲは分布北限の集団であり、自生地も県南部の数ヶ所であることからRDBのBランクとされるが、一般にはあまり見向きもされていないようで、雑草とみなされてバシバシ刈り取られていた。
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●関西の花 フサスゲ
アイアシ
Fig.2 アイアシ
礫浜上部が海崖と接する場所に湧水による小湿地が見られ、気の早いアイアシが開花していた。 アイアシは海岸の砂地や湿地、河口に生育するが、埋立や護岸などによる生育環境の改変によって各地で減少傾向にあるようだが、兵庫県下では自生地が新たに見つかり、 以前はCランクとされていたものが、ランクから外された。 アイアシの花穂は有柄と無柄の小穂が1対となってつき、柄のある方の小穂は無性あるいは雄性の1小花からなり、画像に見える雌蕊の柱頭は、全て無柄の両性花を持つ小穂から出ているものである。 漢字で「間葦」 と書くようで、アシと何かの間のような植物といったところだろうが、アシとススキの間であろうか?  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アイアシ
ワスレグサ属sp.
Fig.3 ワスレグサ属sp.
海崖をフト見上げると、かなり上の方でワスレグサ属らしき花が開花しているのが見えた。 岩もしっかりしており、手掛かりや足場もあるようなので、登って近くで観察した。 下から見たときは時期的にユウスゲの開花の走りかと思ったが、花がユウスゲのように儚げな感じを受けず、色味も橙色が強い。 ノカンゾウよりも葉はしっかりとしており厚味もあったが、以前眼にしたことのあるハマカンゾウのような光沢はない。 思いつくのは園芸種の属名をそのまま当てた「ヘメロカリス」と称されている一群だが、海崖のこのような場所に簡単には侵入できないはずである。 詳しい人に伺ってみるつもりだが、案外、海岸風衡地に適応し、葉に厚味を生じたノカンゾウや花色の濃いユウスゲといったところかもしれない。
*その後、ユウスゲであろうということになりました。
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●湿生植物 ユウスゲ
ドロイ
Fig.4 ドロイ
本種もフサスゲと同様、兵庫県版RDBのBランクとされているが、全く見栄えがせず、この画像を見ても水溜りの脇に生えたクサイにしか見えないだろう。 しかし、画像の水溜りは海岸の岩場の窪みに溜まった湧水であり、高潮があれば海水が流入するであろう場所で、草丈もクサイの2倍ほどある。草丈は大きいが、ドロイと同定するにはルーペで花被片を観察する必要がある。 これまで眼にした生育箇所はいずれも海岸の岩場に溜まった湧水の水溜りの脇か、湧水がしみている海岸の岩場の割れ目で、きわめて限定的な生育環境である。 湿地は他にも沢山あるのに何故このような場所にだけ生育しているのだろうか? 種分化した時期によほど競合種が多くて、こういった場所に逃げ込むしかなかったのか? どこにでもあるそっくりなクサイとはどういう関係にあるのか? 疑問はつきない。
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●湿生植物 ドロイ
ハマボッスとテリハノイバラ
Fig.5 ハマボッスとテリハノイバラ
海崖の岩棚ではハマボッスとテリハノイバラが開花し、高山のお花畑を思わせるような光景だった。岩の間に生える小さな草本は絵になるものである。 テリハノイバラは海岸に多いノイバラの仲間であるが、県下では低湿地周辺にもよく現われる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ハマボッス
ツルナ
Fig.6 ツルナ
砂地で大株となったツルナが開花していた。株の根際近くには多くの果実が形成されており、すでにかなり以前から開花していたようである。 ツルナはハマジシャなどと称され若芽が食用となり、栽培されることもあり、家庭菜園で育てられているのを見たことがある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ツルナ
ハマボウフウ
Fig.7 ハマボウフウ
ハマボウフウはこのあたりでは開花が終わりつつあるようで、葉の一部も黄化しつつある。西宮市内の海岸では数株しか生育していないが、ここでは多くの個体が点在していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ハマボウフウ
ハマウド
Fig.8 ハマウド
ハマウドはハマボウフウの開花が終わる頃に咲き始める。 淡路島の海岸では大きなハマウドが沢山生えていてよく目立つが、ここではツルヨシの群生に埋もれながら数株が生育している程度だった。 花にはコアオハナムグリが1頭訪れていた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ハマウド
ノラニンジン
Fig.9 ノラニンジン
河口の堤防や防波堤の隙間などではノラニンジンが生育していた。ノラニンジンは西アジアから地中海沿岸原産で、ニンジンの原種とされる帰化植物で全国に帰化している。 根は細くて硬く食用とならないが、ここではアカスジカメムシやキアゲハ幼虫のよい食用となっていた。
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ハマエノコロ
Fig.10 ハマエノコロ
ハマエノコロが防潮堤のコンクリートの隙間で出穂していた。 ハマエノコロは海岸に生えるエノコログサの変種で、茎は地表近くを這うように広がるか斜上して丈は低く、花序はエノコログサよりも短くフワフワとした印象を強く受ける。 とくに花序が開き切らない画像のような時期のものが、その印象も強まる。
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ヤマボウシ
Fig.11 ヤマボウシ
但馬南部の山間の渓流畔にヤマボウシが開花していた。この時期に山間で開花しているのがよく目立つ。 秋になると集合果が赤く熟して食べられるというが、山野では未熟なものは見るが、完熟しているものを見たことが無い。野鳥などに食べられてしまうのだろう。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ヤマアジサイ
Fig.12 ヤマアジサイ
梅雨時の沢筋によく見られる美しい花である。アジサイよりも小さく装飾花も少なく、アジサイよりも清楚な印象を与える。 花の色には変異が多く、選抜されて園芸種となっているものも多い。この場所でも紅色を帯びたものが見られた。
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イワガラミ
Fig.13 イワガラミ
ヤマアジサイのそばではイワガラミが開花していた。似たものにツルアジサイがあり、装飾花の萼片が4個あることで区別できる。 花がない時期は、葉を揉んだり、枝を切るとイワガラミはキュウリのような香りがするため区別できる。 若葉は食用となり、酢の物にするとキュウリの酢の物の代用品のようになる。ツルアジサイには微毒があるため、食用に適さない。 イワガラミやツルアジサイは西宮市内でも生育しているが、標高の低い場所に生育するものは生育が悪く、開花することは少ない。 またかなりの年数を経た個体でないと花はつけないようである。イワガラミよりもツルアジサイのほうが北方系のようで、市内での開花はほとんど見ない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ユキノシタ群落
Fig.14 社寺裏山のユキノシタ群落
里山の山際社寺の裏山は植林地となっていたが、シカの食害にも遭わず良好な植生が見られた。 山から流入する細流脇ではユキノシタが群生し開花全盛となっていた。 細流にはキンキカサスゲ、ツリフネソウが生育し、周辺にはオオナルコユリ、ホウチャクソウ、チゴユリ、ナガバヤブマオ、ウワバミソウ、セリバオウレン、ヤマキツネノボタン、ミツバ、 ヤブマメ、ミズタマソウ、ヤマアジサイ、ウバユリ、ベニシダ、シケシダ、イノデ(広義)、リョウメンシダ、ナンゴクナライシダ、そしてそれらを被うようにコウモリカズラが繁茂していた。 林縁部ではタチシオデ、シオデ、アズマガヤ、ツルカノコソウ、コウライテンナンショウらしきもの、カラスビシャクなどが見られた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ユキノシタ
サワギク
Fig.15 サワギク
この時期、山間の渓流畔や林道脇で開花しているのをよく見かける。 大きく成長して花数の多い個体も見られたが、横長の画像を掲載するこのページでは小さくても複数の個体を構図中に入れたほうが安定した印象の画像となる。 サワギクはシカの食害の多い場所でも開花個体を見ることが多く、シカの忌避植物のうちのひとつとなっている。 周囲にはトゲだらけのヤマカシュウが点々と生育しているが、今年出た新葉はほとんど食害されて、開花が見られない。
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●関西の花 サワギク
トウゴクシソバタツナミソウ
Fig.16 トウゴクシソバタツナミソウ
  (下唇に斑紋がなくホクリクタツナミの可能性があります)

サワギクが生育している渓流畔の倒木の間や岩の隙間にトウゴクシソバタツナミソウが開花していた。 トウゴクシソバタツナミソウは葉がほとんど地表から離れず広がるため、シカの食害から逃れているのだろう。
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●関西の花 トウゴクシソバタツナミ
ヤマイヌワラビ
Fig.17 ヤマイヌワラビ
梅雨の時期は夏緑性シダが展葉し、その姿がみずみずしく美しい。シダは門外漢であまり詳しくないので、種名もわからぬまま撮影した画像がどんどん溜まっていくばかりだった。 これではいけない、と思い「日本の野生植物 シダ」を古書店で買い求め、昨年末から標本を採って調べているが、ベニシダの仲間、イノデの仲間、ヤブソテツの仲間などは未だ手を出せない。 ここでは微妙に異なるベニシダの仲間が少なくとも3種は生育していたが、あえて採集しなかった。 近くの他の場所ではキヨタキシダやヌリワラビ、サカゲイノデも生育しており、よい勉強となった。
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●関西のシダ ヤマイヌワラビ
逸出したコンテリクラマゴケ
Fig.18 逸出したコンテリクラマゴケ
ヌリワラビ、イワガネゼンマイ、オクマワラビ、ナンゴクナライシダ、シケシダ、フモトシダ、ベニシダsp.数種、イノデsp.数種が生育する植林地の林道脇を観察しながら下っていくと、 林道脇にいきなりコンテリクラマゴケが現われて驚いた。暗い林下で蛍光色を帯びた青緑色の草体がよく目立つ。 不審に思いながら林道を下っていくと、斜面に梅林が現われ、その林下に茎を30cmほど立ち上げたコンテリクラマゴケが密生していた。 この光景は丹波地方や三田市のクリ園の林床にセリバオウレンが密に群生する光景とよく似ている。 コンテリクラマゴケも薬用または園芸用としてここで栽培されたことがあったのかも知れない。
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コウヤワラビ群落
Fig.19 棚田土手のコウヤワラビ群落
但馬南部では棚田の土手や用水路脇でコウヤワラビが生育しているのを何度か見かけた。兵庫県下では北にむかうほどコウヤワラビの生育地が増えるのだろう。 丹波地方では少ないが、但馬に入るとぐっと多くなる。このような場所に生育するものは頻繁に草刈りに遭うために、正常な胞子葉を形成できないことが多い。 地下茎に形成されている胞子葉の新芽は草刈りに遭うとその時点で栄養葉となる仕組みがあるようで、不完全な裂片の広い胞子葉を上げて、胞子嚢群は形成しない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 コウヤワラビ
棚田土手で開花する草本
Fig.20 棚田土手で開花する草本
棚田の土手ではウツボグサ、ホタルブクロ、ノアザミ、コウゾリナ、ミヤコグサが賑やかに開花していた。 ウツボグサやコウゾリナ、ミヤコグサなどは山村周辺に多いが、ホタルブクロは山に囲まれた棚田に出てくる。 このような場所では谷津の奥に溜池が造られていることが多く、ここもそのような場所で、棚田土手から溜池土堤に続くススキ、チガヤ主体の草地にはツリガネニンジン、ヒキオコシ、 ワレモコウ、スズサイコなどが見られた。
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●関西の花 ウツボグサ  ●関西の花 ホタルブクロ
モリアオガエル卵塊
Fig.21 モリアオガエル卵塊
Fig.20 の谷津には溜池畔や水田に被さる樹上にモリアオガエルの卵塊が沢山見られた。 画像のものは水田に被さるクマノミズキの枝先に産卵されたもので、この木には樹上10mほどの高所にも卵塊が産み付けられていた。 こんなに高所に産み付けたら、水田に着水できる幼生も数少ないのではないかと、余計な心配をしてしまう。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ヤマカガエル
Fig.22 ヤマアカガエル
梅雨期には山林下でアカガエルの仲間が足元から飛び出すことが多い。 ヤマアカガエルは低山から山地まで広く普通に見られる種であり、低山や里山周辺に多いニホンアカガエルに似るが、鼻先が丸みを帯び、あごの下に黒褐色の斑紋があることにより区別できる。 もうひとつ似た種にタゴガエルが山間の細流脇などに生育する。ヤマアカガエルより大きく、皮膚にはたるみがあり、指先はこぶ状にふくれる。タゴガエルは鳴き声はよく聞くが、姿を見かけることは少ない。
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ミゾコウジュ
Fig.23 ミゾコウジュ
山間の比較的大きな溜池の土堤や護岸の隙間にミゾコウジュが生育していた。 ミゾコウジュは大河川の氾濫原や水田の用水路脇などに生育する越年草だが、水田では農薬や圃場整備で減少し、生育状況も不安定であることから環境省純絶滅危惧、兵庫県版RDBでも Cランクとされている。 河川敷などの撹乱地では大きな個体が見られるが、ここでは土壌が安定しているためか、小型の個体が多く、100個体近くが見られたが、トウバナと混生して紛らわしい。
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●湿生植物 ミゾコウジュ
イトモ
Fig.24 イトモ
ミゾコウジュが生育している溜池の水中にはイトモが生育していた。岸近くには切れ藻が吹き寄せられ、葉腋から出た花序が開花し、一部では結実しているものも見られた。 よく似たものに稀産種のツツイトモがあるが、ツツイトモは果実(花)が2段に分かれてつくことによって区別できる。 イトモの花は水中でも自家受粉できるため結実率が高い。イトモは低地の溜池には稀で、山間の谷池に生育していることが多い。 水生植物の常として、全国的に減少傾向にあり、環境省準絶滅危惧、兵庫県版RDB Bランクに指定されている。
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●沈水植物 イトモ
斑入りのナラガシワ
Fig.25 斑入りのナラガシワ
このあたりはアベマキやコナラに混じってナラガシワが多産し、大木もあちこちで見られた。 カシワとは葉柄があることと、鋸歯が丸くならず、鋭頭気味に出ることによって区別は容易である。 立ち寄った溜池畔に多くのナラガシワの中に1個体だけ白い斑が入ったものが生育していた。 最初は病気かと思ったが、隣に生えているナラガシワと比べても葉の形に異常はなく、斑入りのナラガシワだろうと思う。 野外でこのような個体に出会うのは初めてである。
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オオイタビ
Fig.26 オオイタビ
溜池へと向かう林道脇のコンクリートの法面に大株のオオイタビが垂れ下がり、枝先近くに沢山のイチジク状花序をぶらさげていた。 イタビカズラやナツヅタとともに法面を被う様子は自生のようにも見えるが、兵庫県下では淡路島の1ヵ所で記録があるのみで、 はるか北に位置する但馬南部に突然出現するのは非常に怪しい。 最近は幼苗が法面緑化や壁面緑化のために流通しているため、逸出である可能性が高いが、これだけの大株となると、かなり昔に逸出または植栽されたものであろう。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 オオイタビ
タチドコロ
Fig.27 結実したタチドコロ
棚田の農道の林縁でタチドコロが開花・結実していた。タチドコロはヤマノイモの仲間だが、茎や葉柄は他の種よりも硬くで細く、成長初期にはその名のとおり茎が直立する。 どこにでもありそうな草本であるが、兵庫県下で本種が生育するような場所は、古い土壌があまり撹乱を受けずに残っている地域であるという。 丹波地方で本種が生育する場所ではスプリングエフェメラルが出現し、ヤブサンザシと同様、春植物の指標種となるもののひとつであろう。 ここでは、この季節ゆえに春植物の痕跡はなかったが、ヤマカシュウやトキワイカリソウが見られた。 ヤマカシュウは丹波地方ではごく稀に見られ、これも春植物の指標となる種ではないかと考えている。 これらの種とともに出現する草本を記録すると何か面白い結果が得られるかもしれない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 タチドコロ
シオデの出芽
Fig.28 シオデの出芽
社寺の林縁でシオデの出芽が見られた。ここでは様々な成長段階の個体が見られ、よく成長して葉腋に開花間近の花序をつけている個体も生育していた。 同所的にタチシオデも生育しており、シオデよりも個体数は多く、果実形成期に入っており、果実もかなり大きくなっていた。 シオデは「牛尾出」と書き、伸びた巻きひげを出しながら出芽する様子をウシの尻尾に見立てたものであるという。 山アスパラなどと称され食用となるらしいが、これまでのところ、採って食べるほどの群生に出会ったことはない。
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コマツナギ
Fig.29 シカに食害されたコマツナギ
林道脇の土手にまるで盆栽のように小さく丸く刈り込まれたコマツナギが次々と現われた。 これはシカの食害によるもので、分枝の盛んなコマツナギやヤマツツジではこのような小さな丸い形となって開花しているしているのをよく見かける。 こうした様子を見ると、コマツナギは盆栽のよい素材となりそうに思うが、どうなのであろうか。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 コマツナギ
スズサイコ
Fig.30 夕暮れに開花したスズサイコ
溜池土堤の草地では早くもスズサイコが開花していた。 西宮市内ではまだ開花は見られない。西宮よりもかなり北に位置する但馬南部だが、フェーン現象で気温の高い日が続くこの地方では夏が一足早くやって来るのかもしれない。 スズサイコの花が咲き始めると初夏は終り、夏の到来が間近となる。
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●関西の花 スズサイコ
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梅雨期の花々など
梅雨期に入り、フィールドに出ても雨に降られることが多くなりました。 しかし、梅雨期はスゲのシーズンでもあるので、家でジッとしているわけにはいきません。 ただ、雨が降るとデジタル一眼レフを持ち出せず、コンデジでブレの多いピンボケ画像を量産することになります。 スゲやイネ科の花序を撮っても背景にピントがあってしまい、ロクな画像が撮れません。
今回は小雨や霧の中出かけた西宮市周辺と播磨の里山・海岸・高原で出会った植物を紹介します。 播磨の里山・海岸では好天に恵まれ、開花したイシモチソウなどを観察することができました。 播磨の高原にはMさんとともに湿地の調査に出掛けたもので、Mさんのサイト「兵庫の植物観察」とかなり画像が重複するかと思いますが、両サイトともにお楽しみください。

ベニドウダン
Fig.1 ベニドウダン
六甲山地ではベニドウダンが雨に濡れながら開花していた。大きな株で沢山の総状花序をぶら下げ、満開の状態である。 ベニドウダンはシロドウダンの品種であるが、六甲山地ではベニドウダンが圧倒的に多く、開けた尾根上や日当たり良い岩尾根などに多く見られる。
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ヤブウツギ
Fig.2 ヤブウツギ
六甲山地では太平洋岸に生育するヤブウツギと日本海側に分布の中心域のあるタニウツギが同じ場所で混生している。 西宮市内の船坂谷では両種の開花時期がちょうど重なり、中には雑種ではないかと思われる中間的な花の色あいのものも見られる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ヤブウツギ
タニウツギ
Fig.3 タニウツギ
西宮市内では標高400m以下の場所ではヤブウツギよりも早く開花する場所が多く、400m以上になるとヤブウツギはあまり見られなくなり、タニウツギが圧倒的に多くなる。 六甲山地より北ではヤブウツギはほとんど見られなくなり、兵庫県でどこに行っても見られるのはタニウツギである。
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●関西の花 タニウツギ
オニスゲ
Fig.4 開花中のオニスゲ
市内の棚田の最奥の水路脇でオニスゲが開花していた。 市内で見られるスゲの仲間では最も開花結実の遅い種であり、結実の早いヌカスゲ節のスゲはこの頃になると果胞が脱落しはじめ、近くに生えているマメスゲは花茎すらも枯れ落ちており、低地のスゲのシーズンもそろそろ終りとなる。 オニスゲの熟した雌小穂は先がくちばしとなった果胞がいちじるしくふくらんで、イガのようになり、一度見ると忘れることはない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 オニスゲ
アギスミレ
Fig.5 アギスミレ
オニスゲが生育する棚田では日当たり良い用水路脇にアギスミレも開花していた。西宮市内で見られるスミレの仲間では最も遅くに開花し、梅雨入りしてもまだ開花している。 よく似たものにヒメアギスミレがあり、林下の細流脇や日陰の湿地に生育し、アギスミレよりも開花期は早い。 アギスミレとヒメアギスミレを分けないことが多いが、同一種内の変異の範疇であるとすれば、日当たり良い場所のものが開花が遅く、日陰のものが開花が早いとうのはかなり特殊といわざるおえない。 草体はアギスミレの茎は立ち上がるるのに対して、ヒメアギスミレは茎が地表をはう。また花後の両種の葉の形状は明らかに異なる。 花や果実の詳細を観察すれば、さらに相違点が見出せるかもしれない。
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●湿生植物 アギスミレ
フナバラソウ
Fig.6 フナバラソウ
急傾斜の管理の行き届いた草地にフナバラソウが開花していた。 兵庫県版RDBではBランクとされ、環境省RDBでも絶滅危惧U類となっており、生育する草原環境の減少により、急激に減少している種である。 兵庫県下では自然状態で草原環境が維持される流紋岩質の禿山に自生地が点在し、本来はそういった場所に生育していたものが、 草刈りによって人為的に草地が維持されている場所に分布域を広げたのではないかという説が提出された。 同じガガイモ科のスズサイコも草原に生育するが、フナバラソウの生育地に同所的に生育することもあり、両種が見られる場所ではごく稀に推定雑種のヤナギフナバラが見出されることがあるという。 画像の場所でも両種が混生していたが、スズサイコはまだ硬いつぼみの状態であり、ヤナギフナバラらしきものは見られなかった。
【文献】:小林禧樹・丸岡道行・黒崎史平. 2011. 赤穂〜加古川にかけての流紋岩質の岩山地帯で見られる乾燥草原性植物. 兵庫の植物21:1-26. 兵庫県植物誌研究会.  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 フナバラソウ
イシモチソウ
Fig.7 イシモチソウ
播磨の禿山の山麓の裸地にイシモチソウが群生し、開花していた。 イシモチソウは湿生植物であるが、地下水位の高い表水のあるような場所は好まず、貧栄養で毛管現象によって水分の供給が維持される粘土質の裸地〜草地に生育していることが多い。 このような場所はトウカイコモウセンゴケも見られることが多いが、イシモチソウよりも少し湿り気の多い場所に固まって生育していることが多い。 ここでも、湧水が表土を湿らせる場所ではトウカイコモウセンゴケが見られ、そこではイヌノハナヒゲが優占種となっているが、イシモチソウが生育する場所では次に紹介するノグサが多く見られる。
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●湿生植物 イシモチソウ
ノグサ
Fig.8 ノグサ
兵庫県版RDBのCランク種。 ノグサの本来の自生環境はおそらく貧栄養な禿山の湧水がにじむ裸地とその周辺の草地であろう。 ここでは禿山の少しでも湿り気のある裸地〜半裸地におびただしい数のノグサが生育していた。 西宮市とその周辺では花崗岩が風化後、踏み付けなどによって固められた、やや湿った貧栄養な裸地や草地で見られることが多く、 花崗岩の風化による崩壊地の小湿地に出現することはない。 ノグサにとっては急峻で土砂の移動の頻繁な花崗岩の崩壊地よりも、よりきめの細かいなだらかな貧栄養な風化裸地土壌をつくる流紋岩質のやや湿った貧栄養な裸地や草地のほうが住み良いのだろう。
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●湿生植物 ノグサ
コヒロハハナヤスリ
Fig.9 コヒロハハナヤスリ
禿山の山麓にある神社の境内ではコヒロハハナヤスリが群生していた。 コヒロハハナヤスリはシダ植物であるが、同属のハナヤスリ類とともにシダとは思えぬ草体をしており、一度屋外で眼にして気になり始めるといろいろな場所で見かけるようになる。 この日はこの場所の他、2ヶ所の溜池土堤ででコヒロハハナヤスリらしきものが見られた。溜池土堤のものはみな小型であり、コヒロハハナヤスリではないかもしれない。 本サイトでは丹波の山間溜池で沈水状態で生育するものをコヒロハハナヤスリとしたが、水生シダについての著書もあるS先生によると、ハマハナヤスリの可能性もあるという。 今年はS先生をご案内して見ていただく予定である。丹波のものがハマハナヤスリであるとすれば、播磨の溜池土堤で見たものもハマハナヤスリである可能性が高い。
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●湿生植物 コヒロハハナヤスリ
アオヒメタデ
Fig.10 群生するアオヒメタデ
谷津奥の休耕中の麦畑でアオヒメタデがサナエタデとともに密に群生していた。 この地域では有名な「揖保の糸」やうすくち醤油の原料となる小麦が有機栽培されている畑地が多い。 この地域でのアオヒメタデの開花結実期は小麦の刈り取り直前であり、小麦の作付けのサイクルにうまく合致している。 アオヒメタデは環境省絶滅危惧U類、兵庫県版RDBのBランクとなっているが、この地域では小麦の有機栽培田で命脈を保っている可能性がある。 今後は揖保川周辺の小麦作付け田を精査し、その生活サイクルと、小麦栽培との関係を調べる必要があるだろう。 初夏に小麦は収穫され、跡地は夏場に水田となることが多いが、水が張られることによってアオヒメタデの種子の生存率が高まっていることも予想される。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アオヒメタデ
フクド
Fig.11 フクド
播磨の沿岸部の河口でフクドの群落が見られた。 フクドは満潮時には塩水につかってしまうような塩性湿地に生育するヨモギ属の草本で、ヨモギよりも葉質は厚く、裂片の幅は細く長い。 生育環境は河口部の潮間帯に限られ、河口部の開発や河川の水質汚染によって減少した種であり、環境省準絶滅危惧、兵庫県版RDBではBランクとされている。 フクドは越年草であり、1年目は根生葉のみが小さな株をつくり、2年目は画像のようにこんもりとした株となり、秋に花茎をあげて開花する。 ここではフクドが密集する場所もあったが、株の様子が判りやすい水際近くに点在している画像を掲載した。 フクド群落中には同様な環境を好むハマサジ、ホソバハマアカザ、ナガミノオニシバ、シオクグ、ウシオハナツメクサなどが生育していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 フクド
ハマアオスゲ
Fig.12 ハマアオスゲ
砂浜の端の岩礁の窪みにハマアオスゲが生育していた。以前、海岸の岩場の隙間に生育するイソアオスゲを紹介したが、こちらは砂浜や海岸近くの林床や林縁に生育する。 ここでは岩礁に生育していたが、窪みには腐植質と砂が溜まっており、ハマアオスゲの生育が可能になっているのだろう。 海崖上のトベラやウバメガシの根際にも点在していた。 花茎につく雌小穂はイソアオスゲよりも太く、多くの果胞が密につき、熟すと黄白色となり、葉幅はイソアオスゲよりも広く、厚味があって硬く、ざらつく。 ハマアオスゲやイソアオスゲは過去に海進の先端部であった内陸部に生育していることもあるといわれ、そのような場所に生育するものはアオスゲと混同される可能性がある。
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●関西のスゲ ハマアオスゲ
アスヒカズラとマンネンスギ
Fig.13 アスヒカズラとマンネンスギの群落
Mさんと継続調査している播磨地方の高原の湿地に調査に出掛けた。 湿地周辺部の植林下から湿地周縁のオオミズゴケ群落中にわたって、アスヒカズラとマンネンスギの群落がよく発達している。 両種ともにヒカゲノカズラ科のシダ植物で深山の林床などに生育する。 ここでは平地でもよく眼にする同属のヒカゲノカズラも生育しているが、アスヒカズラとマンネンスギに押され気味で、被植率は低い。 この時期はアスヒカズラは胞子嚢穂を上げていたが、マンネンスギは秋に胞子嚢穂を上げ、昨年の枯れた胞子嚢穂が一部で残っていた。 兵庫県下ではアスヒカズラがRDB Aランク、マンネンスギがBランクとなっており、両種とも自生地は限られる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西のシダ アスヒカズラ  ●関西のシダ マンネンスギ
フモトスミレ
Fig.14 オオミズゴケ群落中で開花したフモトスミレ
湿地周縁部に発達したオオミズゴケ群落中でモウセンゴケ、コナスビ、シバスゲなどとともにフモトスミレが多数生育し開花していた。 湿地までのアプローチにある高原草地にシバスゲとともに多くの個体が見られたが、ここではオオミズゴケ中に生育領域を広げていた。 山地に生育するフモトスミレの亜種でヒメミヤマスミレがあるが、兵庫県産維管束植物のリストでは分けられておらず、ここではフモトスミレとしたが、ヒメミヤマスミレとされるものかもしれない。 フモトスミレは六甲山地などでは乾いたコナラ-アカマツ林の林床などに見られるが、ここは多湿な場所である。水分条件はあまりこだわらず、日照条件が生育に適合して根付いているのだろう。 この湿地ではニョイスミレも生育しているが、フモトスミレのほうがよく目立っていた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
カツラネクイハムシ
Fig.15 オタルスゲの花序についたカツラネクイハムシ
この時期に自然度の高い湿地や溜池に行くと、必ずネクイハムシの仲間が見つかる。 ここでは開花中のオタルスゲの花序に沢山のネクイハムシが付いていて、摂食・交尾行動する個体が見られた。 この仲間は見た目だけで区別するのが難しいものも多いので1頭持ち帰って調べたところ、どうやらカツラネクイハムシらしいとわかった。 この仲間は湿地環境の開発に伴い激減しているため、軒並み絶滅危惧種に指定されており、兵庫県版RDBではBランクとなっていた。 生息地の湿地では個体数は多いが、湿地を離れると全く見られなくなる、湿地に依存する甲虫である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コクワガタ
Fig.16 コクワガタ
Mさんに近くの別の湿地にご案内頂いた。湿地は沢の源頭部に広がっており、イグサが優占し、ヤマテキリスゲが多く、トモエソウがあちこちに点在している。 湿地の細流脇ではミズタビラコ、ネコノメソウ、ボタンネコノメソウ、オオバタネツケバナに混じってコクワガタが点在しており、日当たり良い開けた場所に生育するものは開花しはじめていた。 草体はクワガタソウやニシノヤマクワガタよりもこじんまりとしており、花序は短く、葉も小さく、茎には開出毛が密生している。 兵庫県下ではここでしか見られないようで、Mさんが第1発見者である。
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シラネワラビ
Fig.17 シラネワラビ
沢の源頭部に広がる湿地にはところどころでシラネワラビが小さな群落を作っていた。 シラネワラビはナライシダの仲間やミサキカグマなどよく似たものが多く、私のようなシダ初心者にとっては悩ましい種であるが、調査地ということもあって標本を採って調べたところシラネワラビであると判った。 裂片の鋸歯は芒状となり、葉柄は葉身とほぼ同長で、葉柄の鱗片は中央が濃褐色で、周囲が褐色〜淡褐色となる。 シラネワラビは兵庫県では北部の高標高地に点々と記録があり、兵庫県版RDBではCランクとなっている。 ここでは湿地の林縁部に小群落が点在しており、生育状態は良好であった。
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●関西のシダ シラネワラビ
ヒロハノオオタマツリスゲ
Fig.18 ヒロハノオオタマツリスゲ
湿地上部の草地にヒロハノオオタマツリスゲが生育していた。根生する葉は周囲の草に覆われて、長く伸びた花茎が草の中から飛び出して倒れ込んでいた。 オオタマツリスゲに似るが、常緑で前年葉が残り、葉幅は6〜12mmと幅広く、基部の鞘は赤褐色を帯びる。 記録を見ると兵庫県下ではヒロハノオオタマツリスゲは日本海側に分布し、オオタマツリスゲは瀬戸内寄りに分布し、混生する地域はないようで、両種ともに少なく、兵庫県版RDBではCランクとなっている。
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●関西のスゲ ヒロハノオオタマツリスゲ
ミノボロスゲ
Fig.19 ミノボロスゲ
高原の伐採後の草地にある遊歩道脇にミノボロスゲが生育していた。 遊歩道にはスゲ類が多く、踏み付けに遭う場所ではカワラスゲ、ジュズスゲが、両脇の丈の低い草地にはシバスゲ、ヒゴクサが多く、ところどころにオタルスゲが見られた。 ミノボロスゲは高原の草地や湿地周辺の踏み付けのある場所に生育しているが、兵庫県下からの記録はない。 この画像は残念ながら県境の尾根を越えた岡山県側に生育していたもので、兵庫県に生育しているものではない。
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●湿生植物 ミノボロスゲ
ツクバネソウ
Fig.20 ツクバネソウ
林床ではツクバネソウがユキザサなどとともに点在していた。六甲山地では5月初頭に開花するが、ここでは今が盛りのようである。 周辺は植林地となっている場所が多いが、一部ではブナ林が残り、ミズナラ、オオイタヤメイゲツ、ハウチワカエデ、サワフタギ、リョウブ、サラサドウダンなどの落葉広葉樹も生育しており、 自然度の高い場所もモザイク状に残っている。ブナの大木にはヤシャビシャクやオシャグジデンダなども着生していたが、高い位置についてる上、暗いため、良い画像が得られなかった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コフタバラン
Fig.21 コフタバラン
植林されたスギに覆われた平坦な尾根の登山道脇にコフタバランが生育していた。 草体は非常に小さく、背丈は5cmに満たない小型のものが多い。 花も小さく黄緑色で、注意していないと簡単に見落としてしまうランである。 コフタバランは亜高山帯に分布し、兵庫県下では自生地はごく少なく、RDBのAランクとされている。 この山域ではかつて1ヵ所で記録されており、今回発見したものは2ヶ所目の自生地となる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 コフタバラン
ヒロハテンナンショウ
Fig.22 ヒロハテンナンショウ
ヒロハテンナンショウは区別の難しいテンナンショウの中にあって、比較的わかりやすい特徴を持ち、日本海側に分布の中心域がある。 画像のものは暗い植林地下に生育している小型の雄株である。花は葉よりも下につき、葉はふつう1枚(まれに2枚)で、柄のほとんどない5個の小葉を掌状につける。 仏炎苞は緑色で白い条が入り、舷部の内側に突起はなく平滑である。 この日は疎林内や林縁でコウライテンナンショウも見られた。
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レンゲツツジ
Fig.23 レンゲツツジ
湿地の周縁部ではレンゲツツジの花が霧の中でオレンジ色に浮かび上がっていた。 レンゲツツジは兵庫県下では日本海側の高原に生育し、但馬の兎和野高原の群生地が有名である。 ここでは湿地の周縁部にのみ生育が見られ、オオミズゴケ群落中にイヌツゲとともに点在している。
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サラサドウダン
Fig.24 サラサドウダン
サラサドウダンもまた日本海側に分布の中心域があり、ここでは平坦な尾根上にかなり年数を経た大きな個体がまとまった集団をつくっており、沢山の花をつけていた。 花冠全体が朱色となる派手なベニドウダンも美しいが、花冠の先端が更紗染めのように紅く色づくサラサドウダンも清楚で美しい。
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キクガラクサ
Fig.25 キクガラクサ
高原からの帰途、立ち寄った場所ではキクガラクサの開花の走りが見られた。 環境省絶滅危惧U類に指定され、兵庫県下では播磨地方にのみ生育し、自生地は少なく、兵庫県版RDBではBランクとされ、ここでは林道脇などに無造作に現われ驚いた。 ゴマノハグサ科とされるが、葉はキクの葉に似ており、花もゴマノハグサ科のようには見えない。 独立したキクガラクサ科とする見解もあるが、APG体系ではシソクサ属、アブノメ属、クワガタソウ属などとともにオオバコ科とされた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
アオネカズラ
Fig.26 アオネカズラ
渓流に張り出したカエデの大木にアオネカズラがシノブとともに着生していた。 露出した根茎が緑色を帯び、端正な葉をまばらにつける美しいシダで、栽培もされる。 冬緑性で、夏期には葉が枯れ落ちる。 アオネカズラは兵庫県版RDBのCランクとされ西宮市内からも記録があり、かなり記録のある周辺を探し回ったが見つけることはできず、市内では絶滅してしまったのかもしれない。
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但馬の海岸から高原へ・その2
前回の続きで、今回は高原の植物の紹介ですが、海岸のほうで予定よりも多くの時間を費やしてしまい、高原に着いたのは昼の2時を過ぎていて、 残念ながらあまり多くの植物を見ることができませんでした。 スゲ類が主な目的でしたが、見かけたのはカンスゲ、オクノカンスゲ、ミヤマカンスゲ、ニシノホンモンジスゲ、ダイセンスゲといったところで、 ミヤマジュズスゲとキンキカサスゲは数多く、見飽きるほど生えていました。 大型のアズマナルコなどは開花期で、まだ果胞は熟していませんでした。 もっと奥山まで入れば色々と見れるのでしょうが、時間が許しませんでした。 高原の草地では群生するシャクが満開で、林縁ではレンゲツツジが開花し始め、林下ではサンカヨウやユキザサが最盛期となっていました。 但馬のものだけでは、画像がわずか数点となりそうなので、前日の丹波で見た里山の花や、丹波と但馬で見かけた昆虫などの画像も掲載しました。

オオナルコユリ
Fig.1 オオナルコユリ
高原の棚田の脇に山から流れ込む細流があり、オオナルコユリが開花し始めていた。 兵庫県南部の低山で見られるミヤマナルコユリと比べて格段に大きく、草高は1mを超える。 細流の両脇にはコチャルメルソウ、ミヤマジュズスゲ、ミヤマカンスゲ、ワサビ、ハダカコンロンソウ、オタカラコウ、ザゼンソウなどが生育し、 オオナルコユリは画像に見られる花後の大きな葉を展開したザゼンソウに引けを取らぬ大きさであることがわかる。
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オクノカンスゲ
Fig.2 日本海側のオクノカンスゲ
日本海側に生育するオクノカンスゲは、丹波地方に生育するオクノカンスゲに比べるとはるかに葉幅が広く、一見するとまるで別種のように見える。 そのため日本海側のものは変種のハバビロスゲと扱われることがあるが、葉幅の変異は連続的で明確には分けられないとする見解もある。 オクノカンスゲは匐枝を伸ばして殖え、林下の斜面に群生することが多く、その光景は「奥之寒菅」という名の通り、奥山に来たのだという印象を受ける。
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●関西の花 オクノカンスゲ
ハダカコンロンソウとキンキカサスゲ
Fig.3 ハダカコンロンソウとキンキカサスゲ
高原の棚田の土手の緩斜面で所々で湧水が小さな湿地を作っており、兵庫県下の高所の田園の湿地の特性を現すと思われる植生が見られた。 小湿地には画像に見られるハダカコンロンソウとキンキカサスゲが多く、この他スギナ、ワサビ、タデ科ダイオウの仲間、モリアザミ、セリ、ミゾソバ、ホソバノヨツバムグラ、トウバナなどが見られた。 このうちスギナ、セリ、ミゾソバ、ホソバノヨツバクグラ、トウバナは南部の低地にも出現し、キンキカサスゲは丹波地方の低山の湿地にも出現する。 年間を通して出現種を記録し、他の地方の同様な環境の植生と比較すると面白いところだろう。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ハダカコンロンソウ ●湿生植物 キンキカサスゲ
ヤマドリゼンマイ
Fig.4 ヤマドリゼンマイ
ヤマドリゼンマイは比較的高所の湿地、特に高層湿原では御馴染みのシダである。 兵庫県では高層湿原は少なく、自生地は限られ、北部以外は遺存的に広域に点在し、兵庫県版RDBのCランク種となっている。 湿生植物であるが、抽水状態では生育せず、湿原や湿地でも表水のない場所に群生をつくっている。 ゼンマイ科のシダで、胞子葉と栄養葉は異なり、ゼンマイ同様食用となるが、ゼンマイよりも味は落ち、そのため格は低いという。 画像中のヤマドリゼンマイの周囲に見られる線形の葉の草本は全てキンキカサスゲでここでは優占種となっている。 キンキカサスゲは草丈がカサスゲよりもかなり低く、低地のカサスゲが群生する湿原と高原の湿原とではかなり景観が異なる。
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サンカヨウ
Fig.5 サンカヨウ
高原の湿った植林地の林床に開花全盛のサンカヨウが数多く見られた。植林地にはかなりの間隔をあけてスギが植えられ、半日陰の環境となっており、 サンカヨウの生育を可能にしているようである。 周辺にはミヤマジュズスゲ、エンレイソウ、ホウチャクソウ、ユキザサ、ニリンソウ、イチリンソウ、ミヤマカタバミ、トチバニンジン、ウマノミツバ、ヒカゲミツバ、ラショウモンカズラ、 モミジガサ、イノデ類などが生育している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 サンカヨウ
ユキザサ
Fig.6 ユキザサ
サンカヨウの生育する林床ではユキザサが開花し、こちらも間も無く開花全盛期を向かえようとしていた。 林床に生育するものよりも、林縁のより光条件のよい場所に生育するものが、株が大きくなり開花も早いようである。 林縁部では、ミヤマジュズスゲ、カンスゲ、ミヤマカンスゲ、ミズヒキ、クルバムグラ、ミヤマカタバミ、ミツバ、シシウドなどとともに見られた。
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●関西の花 ユキザサ
クルマムグラ
Fig.7 クルマムグラ
ミズナラ、ウリハダカエデなどからなる落葉広葉樹林とスキー場の境界林縁部にクルマムグラが点在し、開花が始まっていた。 まだつぼみが多く、花序は展開しきっていない。 酷似するものにオククルマムグラがあるが、オククルマムグラは茎の稜上に刺状毛があるが、クルマムグラにはそれがなく、ざらつかないことによって区別できる。 同所的にカンスゲ、ニシノホンモンジスゲ、アオスゲ、スギナ、ススキ、コブナグサ、ユキザサ、ミゾソバ、イタドリ、セリ、ヤブヘビイチゴ、シシウド、ヤマブキショウマ、 オオタチツボスミレ、ミヤマカタバミ、フキ、ヨモギなどが生育している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コウヤノマンネングサ
Fig.8 コウヤノマンネングサ
コウヤノマンネングサは山地の林下の腐植質の湿った場所に群生する大型で美しい蘚類である。 昔、夜店で売られていた「水中花」の葉の部分は、コウヤノマンネングサを染色したものが使われていた。 高野山では古くはこのコケを箱に入れてお守りとして信者に授与していたという。 よく似たものにフジノマンネングサがあり、コウヤノマンネングサよりも高所のブナ帯に出現し、より枝を細かく分ける。 ここではバイカモ(ヒルゼンバイカモ型)がなびく林間の水路脇にタニギキョウ、ミヤマカタバミ、ミズヒキ、ウワバミソウなどとともに見られ、 水路の水際では果実期に入ったマルバネコノメソウも生育し、非常に自然度の高い場所であった。
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ジャニンジン
Fig.9 ジャニンジン
丹波地方の林道脇でジャニンジンが開花していた。ジャニンジンはアブラナ科タネツケバナ属のなかでもコンロンソウやミズタガラシとともに開花が遅いほうである。 丹波地方では破砕された堆積岩が堆積した斜面の林縁部で、湧水の見られる場所で見かける種である。 よく似た環境ではタチタネツケバナも出現するが、タチタネツケバナは湧水のない乾いた場所でも見られ、環境に対する適応範囲はより幅が広く、 崩落斜面から溜池畔にまで幅広く見られる。 タチタネツケバナと同様、裂片の切れ込みは細かいが、タチタネツケバナに見られる裂片基部に托葉状の付属物は付かず、葉柄基部が耳状に張り出すことにより区別できる。 花弁は4個あるが、時に退化して無花弁や花弁数の少ないものもある。 画像のものは長角果に斜上する毛があり、このようなものは変種ケジャニンジンとして区別されることもあるが、草体のつくりや生態に違いはない。
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●関西の花 ジャニンジン
シラコスゲ
Fig.10 シラコスゲ
丹波地方の山から棚田に流れ出す細流脇にシラコスゲが生育していた。 シラコスゲは兵庫県下では緩やかで日当たり良い渓流畔、山際斜面下部の成立間もない小湿地、林道脇の小湿地、土砂で埋没途上の砂防ダム内の湿地、山間谷池の流れ込み部などに出現し、 山間の日当たり良い湿地状の場所の遷移初期に主に現れるようである。 したがって湿地でもオオミズゴケ群落が発達するようなある程度安定した場所や経年休耕田には見られず、土砂の移動が見られるツルチョウチンゴケやオオバチョウチンゴケの群落がある湿地に見られる。 兵庫県下の随伴種ではミズニラ、タカネマスクサ、タニガワスゲ、ヤマアゼスゲ、オタルスゲ、ジュズスゲ、マスクサ、オオハリイ、ハイチゴザサ、ヘラオモダカ、オオバタネツケバナ、キツネノボタン、 ネコノメソウ、チャルメルソウ、コチャルメルソウ、ミズユキノシタ、ミゾホオズキ、ニシノヤマクワガタ、ミズタビラコ、クリンソウなどが挙げられる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 シラコスゲ
ヤワラスゲ
Fig.11 ヤワラスゲ
丹波地方の棚田の畦でヤワラスゲが生育していた。兵庫県下では草地〜原野環境に頻出する種であり、湿った日当たり良い草地に多く見られる。 丹波地方では特に多く、河川堤防や溜池土堤の草地、放置された造成地や空地の湿った場所、水田の畦などに頻出する。 兵庫県では稀産種のアワボスゲに似るが、アワボスゲの生育場所は管理の行き届いた撹乱されていない草地に限られ、果胞のくちばしがヤワラスゲよりも短いことにより区別できる。
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●湿生植物 ヤワラスゲ  ●関西の花 アワボスゲ
キツネアザミ
Fig.12 キツネアザミ
丹波地方の加古川上流の河川敷でキツネアザミが開花していた。 ここでは大きく成長した個体が増水によって一旦倒伏して、再び直立して開花しているものがほとんどであった。 キツネアザミは河川敷のほか、畑地周辺、特に旧耕作地で多くの個体が見られる。
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●湿生植物 キツネアザミ
ハナウドとアカスジカメムシ
Fig.13 ハナウドとアカスジカメムシ
初夏になると丹波地方の河川堤防の草地などで、ハナウドが群生して開花している光景をよく眼にする。 複散形花序は大きく散開して白い花は遠くからでもよく目立ち、多くの昆虫が訪花しているのが観察できる。 この日は花上にヒョウモンチョウの仲間、キタテハ、ヒメアカタテハ、ヒメジャノメ、コアオハナムグリ、ヒラタハナムグリ、ベニカミキリ、モモブトカミキリモドキ、 クロヒメハナノミなどが見られた。 アカスジカメムシは幼虫もセリ科草本を食草とし、終生ハナウドやシシウドなどのセリ科植物に依存している。
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●関西の花 ハナウド
ニワハンミョウ
Fig.14 ニワハンミョウ
夕刻に山際の遊歩道をスゲ類を探して歩いていると、ジュズスゲの葉上でニワハンミョウが休んでいた。 昼間は路上を忙しく飛び歩いて、なかなか近寄って撮影させてくれないが、夕刻になると葉上で休むため、撮影しやすい。 ニワハンミョウは派手な色彩をもつハンミョウに比べて非常に地味で目立たないが、道端などでごく普通に見られる甲虫である。 河原に行くとより小型のコニワハンミョウが生息しており、キツネアザミが生育していた河原でも見られた。
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ヒラサナエ
Fig.15 ヒラサナエ
ヒラサナエは「比良サナエ」であり、滋賀の比良山系で最初に発見されて命名されたもので、やや高標高地の湿地を棲家とするサナエトンボの仲間である。 画像のものは但馬の高原の棚田脇にある湿地に見られたもので、湿地にはキンキカサスゲ、ヤマアゼスゲ、コウヤワラビ、ヤノネグサ、クロバナヒキオコシ、 オタカラコウ、ゴマナ、タムラソウ、ヒメアザミなどが生育している。
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ニホンカワトンボ
Fig.16 ニホンカワトンボ
ニホンカワトンボは最近のDNA解析によって、オオカワトンボとヒガシカワトンボが1種としてまとめられたもの。 兵庫県には酷似するアサヒナカワトンボ(旧ニシカワトンボ・旧カワトンボ)が分布しており、区別が難しい。 ニホンカワトンボはこの時期、渓流畔や湿地の細流周辺、山間棚田の水路周辺などに沢山見られ、場所によってはうんざりするくらい生息していることもある。
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ユキザサに訪花したルイスクビナガハムシ
Fig.17 ユキザサに訪花したルイスクビナガハムシ
但馬の高原の林床のユキザサ花上にルイスクビナガハムシが見られた。 高標高地に見られる種のようであり、ここではシイ〜カシ帯上部にあたる林下で見られた。 図鑑によると幼虫の食草はマイヅルソウ、ナルコユリ、ミヤマナルコユリといったユリ科の草本が挙げられているが、おそらく同じユリ科であるユキザサも食草としているのだろう。 Lilioeris属はその名の通りユリ科草本を食草とし、成虫はよく目立つ赤色を帯びることが多いようである。
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シュレーゲルアオガエル
Fig.18 シュレーゲルアオガエル
高原の林下のサンカヨウの葉上でシュレーゲルアオガエルが休んでいた。 シュレーゲルアオガエルは低地から高標高地にまで見られるが、減少傾向にあり、兵庫県版RDBではCランクとされている。 主に里山の自然度の高い谷津田の湿田周辺で見られることが多く、葉上で静止しているのを見ることが多い。 ここではすぐ近くに高層湿原があって、そこで産卵・繁殖しているのだろう。
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